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朝から下痢が止まらない… 過敏性腸症候群の可能性も?

大腸に関するお悩み
朝から下痢が止まらない… 過敏性腸症候群の可能性も?
友利 賢太

院長 友利 賢太

資格

  • 医学博士(東京慈恵会医科大学)
  • 日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
  • 日本大腸肛門病学会 大腸肛門病専門医
  • 日本消化器病学会 消化器病専門医
  • 日本消化器外科学会 消化器外科専門医・指導医
  • 日本消化器外科学会 消化器がん外科治療認定医
  • 日本消化器内視鏡学会
    上部消化管内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本消化器内視鏡学会
    大腸内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本外科学会 日本外科学会専門医
  • 日本消化管学会 消化管学会専門医
  • 日本ヘリコバクター学会 H. pylori 感染症認定医
  • 4段階注射療法受講医
  • 東京都難

朝、起きてすぐに下痢が起こる原因は、生理的なリズムの変化に深く関係しています。起床とともに自律神経が副交感神経から交感神経に切り替わり、腸の動きが急激に活発になります。さらに、朝食を摂ることによって「胃・大腸反射」が引き起こされ、便意が誘発されます。

この自然な流れが過剰に反応してしまうと、腹痛を伴う下痢が頻繁に起こることになります。とりわけ、朝に通勤や通学のストレスを抱える人は、自律神経のバランスが乱れ、腸が敏感に反応しやすい状態となります。そのため、朝に下痢が集中して起きるというパターンが見られるのです。

なぜ朝に下痢症状が多いのか?

過敏性腸症候群の患者が訴える特徴的な症状の一つが、「朝、目覚めてすぐに下痢が起きる」という現象です。この現象は、単なる偶然ではなく、生理的なリズムや心理的要因が複雑に絡んだ結果であると考えられています。

私たちの体は、睡眠から覚めると交感神経が優位に働き、身体全体が活動モードに切り替わります。この際に腸の蠕動運動(食べ物を送る働き)も活発化します。これは自然な反応なのですが、IBS患者の場合、この動きが過剰に反応してしまうのです。つまり、腸が目覚めと同時に「暴走状態」に陥るため、便意が強くなり、排便回数が増えたり、下痢になってしまったりするのです。

加えて、朝の時間帯というのは多くの人にとって「1日のスタート」であり、出勤や通学など何かしらの予定があることが多いため、時間に追われるプレッシャーや緊張がかかりやすい時間でもあります。この心理的なストレスが、腸にとってはさらなる負荷となり、下痢を悪化させてしまう要因になります。

「休日の朝は症状が出ないのに、平日の朝になると急に下痢になる」というパターンを持つ人は特に、心理的ストレスによるIBSの影響が強いと考えられます。これに対しては、腸そのものの治療と同時に、ストレスケア、生活習慣の改善が求められます。


過敏性腸症候群(IBS)とは

過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome、略称:IBS)は、消化管に明らかな器質的異常や炎症、腫瘍などが存在しないにも関わらず、慢性的に腹痛や便通異常を繰り返す機能性消化管疾患です。日本では成人の10〜15%程度が該当するとも言われており、男女問わず多くの人が悩まされています。とくに20代〜40代の働き盛りの年代に多く見られ、ストレス社会の現代において年々増加傾向にあります。

IBSの大きな特徴は、症状が慢性的であるにもかかわらず、内視鏡検査や血液検査では異常が見つからないという点です。つまり、病院で検査を受けても「異常なし」と言われてしまい、治療の糸口が見えないまま症状に悩まされ続けるケースが少なくありません。しかし、IBSはれっきとした病気であり、診断と治療の手順に従えば、多くの人が症状の改善やコントロールが可能です。

症状は、腹痛・腹部不快感・膨満感・ガス溜まり・便秘や下痢といった便通異常が中心です。特に排便前に腹痛を感じ、排便すると和らぐという特徴的なパターンを持ちます。こうした症状が週に1回以上、過去3ヶ月間続いている場合はIBSが疑われます。

発症のメカニズムは完全には解明されていませんが、ストレス、自律神経の乱れ、腸内細菌のバランス異常、消化管の運動異常、過敏な腸の知覚反応など、さまざまな要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。心理的な要素が強く関与しているため、単に「腸の病気」としてだけでなく、心身のバランスを総合的に考慮した対応が必要です。

IBSは命に関わる疾患ではありませんが、通勤前にトイレを何度も往復したり、外出を避けたりと、生活の質(QOL)に深刻な影響を与えることがあります。そのため、放置せず早めに医師へ相談することが、症状改善への第一歩です。


IBSの主な4タイプ

過敏性腸症候群は症状のタイプに応じて、大きく4つに分類されます。この分類は治療方針を決定する際にも非常に重要で、正しいタイプを見極めることで、より効果的な治療が可能となります。

まず最も多いのが下痢型IBS(IBS-D)です。これは、腹痛や腹部不快感とともに、水様性の軟便や下痢が頻繁に発生するタイプです。特に朝方に症状が集中する傾向があり、トイレに行ってもすぐにまた便意を感じるという、非常に困惑する症状が特徴です。外出前や重要な会議の直前など、心理的なプレッシャーのある場面で悪化しやすく、仕事や日常生活に支障をきたします。

次に便秘型IBS(IBS-C)は、排便が困難で硬い便が続く状態が主な症状です。下腹部の張りや膨満感、腹痛を伴うことがあり、排便後もスッキリしないという不快感が残ります。ストレスや食生活の乱れが大きく関与していることが多く、女性に比較的多く見られる傾向があります。

混合型IBS(IBS-M)は、下痢と便秘を交互に繰り返すタイプです。その日の体調やストレス状態によって便通が大きく変化し、予測が難しいため、患者本人のストレスが非常に高くなるタイプでもあります。

最後に、どの型にも明確に当てはまらない分類不能型IBS(IBS-U)があります。これは腹痛や不快感があるものの、便の状態に一貫性が見られないケースで、症状が非典型的で診断や治療が難しいとされます。

IBSのタイプによって治療法や注意すべき生活習慣も異なってくるため、医師の診察を通じて正確に分類することが、改善への第一歩となります。


IBSの原因と誘発因子

過敏性腸症候群の発症には、明確な単一の原因があるわけではありません。むしろ、複数の要素が絡み合って症状を引き起こす「多因子性疾患」として理解されています。なかでももっとも大きな影響を与えているのが「ストレス」です。

ストレスを感じると、自律神経のバランスが乱れ、交感神経が優位になります。これにより、腸の動きが異常に活発化したり、逆に鈍くなったりします。過度な腸の収縮が下痢を引き起こし、蠕動運動の低下が便秘をもたらします。また、腸が過敏な状態になることで、少しのガスや便の移動にも強い痛みや不快感を感じやすくなるのです。

さらに、腸内細菌のバランスの乱れも重要な要因の一つです。近年の研究では、IBS患者では腸内の善玉菌と悪玉菌のバランスが崩れていることが多く、これがガスの発生や腸の炎症反応を引き起こしている可能性が示唆されています。抗生物質の過剰使用や偏った食生活が、腸内環境の悪化を招いていると考えられています。

また、過去に胃腸炎や食中毒などにかかった経験がある人は、そこからIBSを発症することがあるという「感染後IBS(PI-IBS)」も報告されています。さらに、過去のトラウマや家庭・職場での心理的ストレス、過去の虐待経験がIBSの引き金となるケースもあります。

こうした要因が複雑に絡み合うことで、IBSの症状が出現・増悪するため、単に薬で腸を動かすだけでなく、心身のトータルケアが必要とされるのです。


その他の考えられる病気

①潰瘍性大腸炎・クローン病

IBSと似たような症状を持つ疾患として見逃してはいけないのが「炎症性腸疾患(IBD)」です。なかでも潰瘍性大腸炎やクローン病は、腸に慢性的な炎症が生じる病気であり、放置すると重篤な合併症を引き起こす可能性があります。

潰瘍性大腸炎では、直腸から始まり大腸全体にわたって粘膜が炎症を起こし、びらんや潰瘍が形成されます。腹痛、血便、粘液便、頻回な下痢が主な症状です。クローン病は口から肛門までの消化管全体に炎症が及ぶ可能性があり、下痢、発熱、体重減少、肛門病変などが見られます。

IBSとは違って、これらの病気では血液検査や内視鏡検査で異常所見が見られるため、診断は比較的明確に行うことができます。朝の下痢に血便や強い腹痛、発熱などを伴う場合は、IBDを疑って早期に消化器専門医の診察を受けることが重要です。

②感染性胃腸炎

もう一つ、見逃してはならないのが「感染性胃腸炎」です。これはウイルスや細菌による一時的な胃腸の炎症で、突発的な下痢、嘔吐、腹痛、発熱が典型的な症状です。ノロウイルスやロタウイルス、大腸菌などが代表的な原因となります。

感染性胃腸炎は、前日に摂取した飲食物が原因となっていることが多く、朝方に症状が強く出ることも珍しくありません。ただし、これは一時的な疾患であり、多くの場合は数日以内に自然回復します。ただし、高齢者や乳幼児では重篤化する恐れがあるため注意が必要です。


IBSの診断方法とは

過敏性腸症候群の診断は、他の疾患との鑑別診断が非常に重要です。そのため「除外診断」として、まず器質的疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病、大腸がんなど)を否定するための検査が行われます。

具体的には、血液検査や便潜血検査、腹部超音波検査、内視鏡検査(大腸カメラ)などが用いられます。これらで明らかな異常がないと判断されたうえで、IBSの診断基準に基づいて診断が確定されます。

IBSの診断には、「ローマ基準(Rome IV)」という国際的な診断ガイドラインが使われています。この基準では、「過去3ヶ月間のうち少なくとも1週間に1回、腹痛が起こり、その症状が排便に関連していること」「便の頻度または形状に変化があること」が診断の要点とされています。

つまり、IBSは「除外と観察による診断」が基本となるため、信頼できる消化器科医による問診と検査の両方が不可欠です。当院には消化器専門医が常駐しておりますので、安心してお越し下さい。


医師に相談すべきタイミング

朝の下痢や腹部不快感が続いていると、「これくらいなら様子見でいいかな」と感じる方も多いですが、いくつかの危険サインが見られる場合には、早めに専門医の診察を受けることが非常に重要です。

特に次のような症状が見られた場合は、自己判断ではなく医療機関を受診することが推奨されます。

  • 下痢が1ヶ月以上続いている
  • 便に血が混じっている、または黒っぽい便が出る
  • 体重が意図せず減少している
  • 食欲不振や嘔吐を伴っている
  • 発熱がある
  • 夜間に何度も下痢で目が覚める

これらの症状はIBSではなく、より深刻な消化器疾患の兆候である可能性があります。たとえ一時的に症状が治まっても、根本原因を突き止めておかなければ再発を繰り返すことになります。安心して日常を送るためにも、医師への相談は早ければ早いほど良いのです。


過敏性腸症候群の治療法

過敏性腸症候群(IBS)の治療は、単に腸の働きを整えるだけでなく、ストレスや心理的要因、生活習慣、食生活までを含めた包括的なアプローチが必要です。IBSは個人差が大きいため、画一的な治療ではなく、症状やライフスタイルに合わせたオーダーメイドの対応が求められます。

治療の基本は、「薬物療法」「食事療法」「心理療法」「生活習慣の改善」の4本柱で構成されます。まず、薬物療法では、症状のタイプ(下痢型、便秘型、混合型)に応じて処方される薬が異なります。たとえば、下痢型の場合には整腸剤や腸の動きを抑える薬、便秘型では便を柔らかくする薬や腸を刺激する薬が用いられます。

次に重要なのが、近年注目されているFODMAP(フォドマップ)食事療法です。これは、腸内で発酵しやすい糖質群を制限する食事法で、IBSの症状を劇的に軽減させることが報告されています。代表的な高FODMAP食品には、玉ねぎ、にんにく、乳製品、小麦、豆類などがあります。これらを一定期間避けることで腸の刺激を抑える効果が期待できます。

さらに、ストレスが強く関与しているIBSでは、心理療法の導入も非常に効果的です。なかでも「認知行動療法(CBT)」は、患者の思考パターンや行動を整理し、ストレスへの反応を改善するために広く使われています。加えて、カウンセリングやリラクゼーション法(瞑想、マインドフルネスなど)も有効です。

最後に、生活習慣の見直しも欠かせません。不規則な睡眠や過度な飲酒、喫煙、過労はIBSの症状を悪化させる要因となります。規則正しい生活リズムを整えることで、腸の動きも自然に安定してきます。

このように、IBSの治療は多面的でありながら、地道な努力の積み重ねが結果を生みます。医師との連携のもと、自分に合った治療法を見つけていくことが大切です。