

院長 友利 賢太
資格
- 医学博士(東京慈恵会医科大学)
- 日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
- 日本大腸肛門病学会 大腸肛門病専門医
- 日本消化器病学会 消化器病専門医
- 日本消化器外科学会 消化器外科専門医・指導医
- 日本消化器外科学会 消化器がん外科治療認定医
- 日本消化器内視鏡学会
上部消化管内視鏡スクリーニング認定医 - 日本消化器内視鏡学会
大腸内視鏡スクリーニング認定医 - 日本外科学会 日本外科学会専門医
- 日本消化管学会 消化管学会専門医
- 日本ヘリコバクター学会 H. pylori 感染症認定医
- 4段階注射療法受講医
- 東京都難
目次
胃腸と脳はつながっている?
私たちが日々感じる体調の変化の中でも、特に意識しにくいのが「胃腸の不調」と「眠気」の関係です。これまで別々のものと考えられていた消化器と脳の働きは、近年の研究で密接に連携していることがわかってきました。この仕組みは「脳腸相関(のうちょうそうかん)」と呼ばれ、現代医学や心理学の分野でも大きな注目を集めています。
腸には「腸内神経系(Enteric Nervous System)」と呼ばれる、独自の神経ネットワークが存在しており、その複雑さから「第二の脳」とも呼ばれています。この腸内神経系は、脳と直結する迷走神経を通じて情報を伝え合い、感情や意識状態、免疫反応にまで影響を与えることがわかっています。つまり、胃腸が不調であるという情報は、単なる「お腹の問題」にとどまらず、脳にも伝わって全身の状態に影響を及ぼすのです。
このように、胃腸と脳は切っても切れない関係にあり、一方の不調がもう一方に波及することがしばしば起こります。胃が重い、腸が張っている、消化が悪い…そんなときに眠気や集中力の低下、気分の落ち込みを感じるのは、この脳腸相関によって引き起こされていると考えられています。
なぜ胃腸が不調だと眠くなるのか?
胃腸の不調が眠気を引き起こす理由は、いくつかの生理的・神経学的な要因が絡み合っています。まず、胃腸が正常に働かないと、食べ物の消化や吸収が不完全になり、体が必要とするエネルギーを効率よく得られなくなります。このエネルギー不足の状態は、脳にも影響を与え、「だるい」「眠い」といった感覚として現れやすくなるのです。
また、胃腸が疲れているときや消化に負担がかかっているとき、体はその回復のためにエネルギーを集中的に消化器に送るため、他の機能、特に脳の覚醒状態が抑制されます。これは自律神経が働き、副交感神経が優位になるためで、リラックス状態=眠気へとつながります。
さらに、腸内環境が乱れると「セロトニン」などの神経伝達物質の生成にも影響が出ます。セロトニンは幸福感を司るだけでなく、夜間の睡眠ホルモン「メラトニン」の前駆体でもあり、そのバランスが崩れると日中の眠気やだるさを感じやすくなります。実際、便秘や下痢などの消化器症状とともに、異常な眠気を訴える患者は少なくありません。
こうしたメカニズムにより、胃腸の働きが低下しているとき、体は“休ませよう”という指令を出し、眠気としてそのサインを送っているのです。したがって、「胃腸の不調を感じると眠くなる」というのは、体の正常な反応のひとつとも言えます。
食後に眠くなるのはなぜ?
食後に強烈な眠気を感じた経験は、誰にでもあるはずです。実はこの現象にも、胃腸と脳の密接な関係が関わっています。まず、食事をすると血糖値が急上昇し、それに伴ってインスリンが分泌されます。このとき、インスリンは血中のアミノ酸バランスを変え、トリプトファンという物質を脳内に取り込みやすくします。トリプトファンは、先ほど述べた「セロトニン」の材料であり、そこから「メラトニン」が合成されるため、眠気が生じるという仕組みです。
また、食事を摂った後は、消化活動が活発になるために副交感神経が優位になります。副交感神経が働くと、心拍数や血圧が下がり、体はリラックス状態へと切り替わります。このとき、脳の覚醒レベルも低下し、眠気が強くなるのです。特に高脂肪・高炭水化物の食事は消化に時間がかかり、血流が内臓に集中しやすく、脳への血流が減少することでさらに眠気を助長します。
ここまでは正常な生理的反応ですが、異常なほど眠くなる、仕事や勉強に支障が出るといったケースでは、胃腸の機能が過剰に疲弊している、あるいは血糖調節がうまくいっていない可能性もあります。そのような場合は、一度医師に相談してみるとよいでしょう。
消化器の不調と自律神経の乱れ
自律神経とは、交感神経と副交感神経から成り立ち、体内のさまざまな臓器の働きを無意識に調整している重要な神経系です。胃腸の働きはこの自律神経のバランスに大きく依存しており、過度のストレスや生活リズムの乱れがあると、自律神経も乱れやすくなります。その結果、消化機能が低下し、食後の膨満感、胃もたれ、腹痛、便通異常などを引き起こすことになります。
特に副交感神経が優位になりすぎると、体は“休むモード”に入りやすく、眠気が強く現れます。一方で、交感神経が過剰に働くと、腸の緊張が高まり、けいれん性の腹痛や下痢、ガス溜まりなどを引き起こすため、これもまた体力を奪い、結果として眠気や集中力低下につながります。
胃腸がうまく働かないと、栄養がきちんと吸収されず、脳をはじめとする全身のエネルギー不足を招くことになります。その結果、脳は“働きすぎないように”という防御反応として、眠気を引き起こしてしまうのです。これは、体が危険信号を送っている証拠とも言えるでしょう。
自律神経のバランスを保つためには、規則正しい生活、深い呼吸、適度な運動、そして十分な睡眠が欠かせません。胃腸と眠気の関係を改善したいなら、まずはこの自律神経の整備から始めるのが賢明です。
胃腸の病気で眠気が強くなることはある?
はい、実際に胃腸の特定の病気が眠気を強めることはあります。代表的なものとして「機能性ディスペプシア(FD)」や「過敏性腸症候群(IBS)」などの機能性消化管疾患が挙げられます。これらは検査では異常が見つからないものの、胃のむかつきや腹痛、ガス溜まりなどの症状が続く疾患であり、慢性的な身体疲労や眠気を訴える人が多いのが特徴です。
こうした病気の背景には、腸内環境の乱れや自律神経の不調、ストレスの蓄積などが複雑に関係しており、それが脳の覚醒システムにも影響を与えることで、日中の異常な眠気が生じます。また、症状が続くことで精神的な疲労感や抑うつ感も加わり、全身の活力が低下する悪循環に陥ることもあります。
また、消化性潰瘍や胃炎などによって食欲が落ち、必要な栄養素やエネルギーを十分に摂取できていない場合も、体力や集中力が維持できず、慢性的な眠気の原因となります。特に鉄やビタミンB群などが不足していると、脳の代謝にも支障が出てしまうため注意が必要です。
このように、胃腸の病気は直接的・間接的に眠気を引き起こす要因になり得ます。眠気を「ただの疲れ」と捉えず、その背後に消化器の異常が潜んでいないかを疑ってみることが大切です。
眠気と一緒に現れるその他の症状とは
胃腸の不調に伴う眠気は、単独で現れることもありますが、多くの場合は他の症状とセットで出現します。特に「全身の倦怠感(だるさ)」はよく見られ、体全体が重く感じたり、動くのがおっくうになるような感覚を伴います。これにより仕事や家事に集中できず、「なんとなく調子が出ない日々」が続くようになります。
また、「集中力の低下」や「物忘れ」といった認知機能の低下も、慢性的な消化不良や腸内環境の悪化によって起こりうる症状です。腸が炎症を起こしていると、脳内にも“炎症物質”と似た化学物質が影響を及ぼし、注意力が散漫になったり、思考が鈍くなったりすることがあります。
さらに、「微熱」や「頭重感」「冷え」といった自律神経系の不調が同時に見られるケースもあります。特に女性の場合は、生理周期との関連で症状が強くなることもあり、「生理前になると胃腸が不調で、同時に強い眠気も出る」という訴えが非常に多く聞かれます。
これらの症状が複数重なっている場合、単なる“疲れ”ではなく、体全体のバランスが崩れているサインかもしれません。眠気以外にどんな体調変化があるかを丁寧に記録しておくことで、原因の特定や医師への相談もスムーズに行えるようになります。
脳が“腸の炎症”を察知して眠気を誘発する?
近年注目されている研究では、腸内で起きている軽度の炎症反応が、脳の働きに影響を及ぼしているというメカニズムが明らかになってきました。これがいわゆる「腸炎症–脳機能低下ルート」とも呼ばれ、腸内の炎症が神経伝達物質やサイトカイン(免疫関連物質)を介して脳に影響を与え、眠気や無気力、集中力低下といった症状を引き起こすというものです。
たとえば、腸のバリア機能が低下して“腸漏れ(リーキーガット)”状態になると、通常は腸内に留まるはずの物質が血中に漏れ出し、全身に微細な炎症を引き起こします。こうした慢性的な炎症が脳の神経細胞の働きを鈍らせ、「ぼんやりする」「眠い」「意欲がわかない」といった症状を発生させるのです。
また、腸では脳内と同じようにセロトニンの90%以上が作られていることが知られており、腸の健康がセロトニン産生に与える影響も非常に大きいとされています。セロトニンの不足は、睡眠障害や日中の過眠、情緒不安定などの原因にもなります。
このように、腸の状態は「炎症」や「神経伝達物質の変化」を通じて、脳の眠気やパフォーマンスに直結しています。眠気が慢性的に続くときは、腸内環境の炎症や食生活の乱れを見直すことが、症状改善の大きな鍵となるでしょう。
病気以外にもある眠気の原因
胃腸の不調によって眠気が出ることは多くの人が経験していますが、実際には病気でなくても日常的な生活習慣や環境が原因となっている場合も少なくありません。たとえば、睡眠不足は最も代表的な原因のひとつです。短時間睡眠が続くと、脳が十分に休息できず、日中も半覚醒のような状態が続いてしまいます。
また、血糖値の急変動も眠気の原因になります。食後に血糖値が急上昇し、その後インスリンによって急降下すると、「低血糖状態」に陥ることがあり、これが脳のエネルギー不足を招き、強い眠気を引き起こします。特に朝食を抜いて昼にドカ食いをする人や、糖質中心の食事を摂る習慣がある人は、このリスクが高まります。
さらに、薬の副作用にも注意が必要です。抗ヒスタミン薬、抗うつ薬、安定剤などは眠気を誘発する成分が含まれている場合があり、知らずに眠気の原因となっているケースがあります。市販薬でも花粉症用や風邪薬などでこうした作用を持つものが多いため、服用中の薬の影響を疑ってみることも重要です。
その他、ストレスの蓄積や運動不足、水分不足など、些細に思える生活習慣の乱れが体内の代謝や神経伝達を鈍らせ、慢性的な眠気を引き起こすこともあります。「寝ても寝ても眠い」と感じるときは、胃腸や病気だけでなく、生活全体を見直してみると、意外な原因が潜んでいることもあるのです。
眠気を悪化させる生活習慣とその見直し方
眠気がなかなか取れないとき、多くの人は「もっと寝れば治る」と考えがちですが、実は生活習慣そのものが眠気を悪化させているケースも非常に多く存在します。特に胃腸に優しくない生活リズムは、眠気と密接に関係しています。
まず注目すべきは不規則な食事のタイミングです。食事を抜いたり、夜遅くに食べたりすることで、消化器への負担が増し、夜間の睡眠の質が低下してしまいます。これにより、翌日も深い眠りをとれず、日中に強い眠気を感じる原因となります。特に夜に脂っこい食事や刺激物を摂ると、胃が活発に働きすぎて熟睡できません。
次に、姿勢の悪さや長時間同じ体勢でいることも、血流を悪化させて脳の酸素供給が不十分になり、眠気を誘発します。また、デスクワーク中心の人に多いのが、運動不足による代謝低下です。体を動かすことで血流が改善し、神経系も活性化されるため、軽い運動を習慣にするだけでも眠気は大きく変わります。
そして、スマホやPCの見すぎによるブルーライトの影響も深刻です。夜遅くまで強い光を浴びていると、脳が昼間と錯覚し、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌が抑制されてしまいます。結果として夜の睡眠が浅くなり、日中の眠気が増すという悪循環に陥ります。
これらの習慣は一見些細でも、積み重なると慢性疲労や眠気の原因になります。食事・運動・睡眠のバランスを整えることが、胃腸の健康を保ち、快適な覚醒状態を取り戻すための第一歩です。
胃腸を整えることで眠気も改善する?
答えは「はい」です。胃腸を整えることで眠気が改善するケースは非常に多く報告されています。前述したように、胃腸は「第二の脳」と呼ばれるほど神経ネットワークが密集し、自律神経・ホルモン・免疫系に密接な関係を持っています。したがって、腸内環境が整えば、セロトニンの分泌も安定し、自然な覚醒リズムと睡眠サイクルが取り戻されやすくなるのです。
特に重要なのが「腸内細菌のバランス」です。善玉菌が優勢になると、腸内での炎症が抑えられ、便通も改善されます。これにより脳への負担も減り、結果として眠気や集中力の低下が軽減されるのです。発酵食品(ヨーグルト、納豆、味噌など)や水溶性食物繊維(海藻、野菜、果物)を積極的に摂ると、腸内環境の改善に役立ちます。
また、漢方薬や整腸剤を活用するのも一つの方法です。「六君子湯」「半夏瀉心湯」などは、消化機能を整えるとともに、自律神経のバランスも整える作用があり、眠気を訴える患者にも処方されることがあります。
胃腸が整うと、体全体の巡りが良くなり、自然と目覚めのよい朝が迎えられるようになります。眠気対策としてサプリやカフェインに頼るよりも、まずは「腸を整えること」から始めるほうが、根本的かつ持続的な改善につながるでしょう。
医師に相談すべき症状の特徴
日中の眠気が一時的なものであれば、生活習慣の改善で対処できることが多いですが、以下のような症状を伴う場合には医師への相談が必要です。
まず、「眠気が毎日続く」「数週間改善しない」といった慢性化した眠気は、何らかの基礎疾患が関係している可能性があります。特に、眠気と同時に胃痛・腹部膨満感・吐き気・食欲不振などの消化器症状がある場合は、胃腸疾患を疑いましょう。
また、「眠気が突然襲ってくる」「立っていても眠くなる」「会話中に意識が飛ぶ」などの症状があれば、睡眠障害や神経系の問題の可能性もあります。鉄欠乏性貧血や甲状腺機能低下症など、内分泌系の異常が眠気の原因になることもあります。
医師に相談する際は、眠気の発生時間、頻度、他の体調不良との関連性などをメモしておくと、診断がスムーズになります。薬の服用歴やストレスの状況、食生活も整理しておくとよいでしょう。何科に行けばよいかわからない場合は、まずは内科または消化器内科から相談するのが無難です。
よくある質問(FAQ)
胃腸が悪くなると本当に眠くなりますか?
はい。腸は神経やホルモンと深くつながっており、炎症や機能低下が眠気の原因になります。
食後に眠くなるのは病気ですか?
一時的な眠気は正常な反応ですが、異常に強い眠気が毎回出る場合は消化器や血糖値の問題が考えられます。
眠気と便秘は関係ありますか?
あります。便秘によって腸内環境が悪化すると、セロトニンの分泌が乱れ、眠気が増すことがあります。
睡眠薬や市販薬が眠気の原因になりますか?
はい。一部の薬には眠気を引き起こす副作用があります。用法用量を守り、必要なら医師に相談しましょう。
腸を整えると眠気は改善しますか?
多くのケースで改善が見られます。食事・腸活・整腸剤などを継続的に取り入れると良いでしょう。
医療機関は何科を受診すべきですか?
まずは内科か消化器内科を受診し、必要に応じて睡眠外来や内分泌科に紹介されることもあります。