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風邪と間違えやすい胃腸炎の症状を見極めるには

大腸に関するお悩み
風邪と間違えやすい胃腸炎の症状を見極めるには
友利 賢太

院長 友利 賢太

資格

  • 医学博士(東京慈恵会医科大学)
  • 日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
  • 日本大腸肛門病学会 大腸肛門病専門医
  • 日本消化器病学会 消化器病専門医
  • 日本消化器外科学会 消化器外科専門医・指導医
  • 日本消化器外科学会 消化器がん外科治療認定医
  • 日本消化器内視鏡学会
    上部消化管内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本消化器内視鏡学会
    大腸内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本外科学会 日本外科学会専門医
  • 日本消化管学会 消化管学会専門医
  • 日本ヘリコバクター学会 H. pylori 感染症認定医
  • 4段階注射療法受講医
  • 東京都難

胃腸炎とはどんな病気か?

胃腸炎とは

胃腸炎とは、胃や小腸、大腸などの消化管に炎症が起こる病気で、嘔吐や下痢、腹痛などの症状を引き起こします。主な原因はウイルスや細菌などの感染による「感染性胃腸炎」と、ストレスや食べ過ぎ、薬の副作用などが関係する「非感染性胃腸炎」の2種類に分けられます。

感染性胃腸炎

特に冬場に流行するノロウイルスやロタウイルスは、集団感染を引き起こしやすく、保育園や学校、介護施設などで注意が必要です。感染すると1〜2日以内に症状が出始め、吐き気や水のような下痢、軽い発熱を伴うことが一般的です。

非感染性胃腸炎

一方で、非感染性の胃腸炎は、暴飲暴食や冷え、薬(特にNSAIDs)などによって胃腸の粘膜が刺激され、炎症を起こすタイプです。この場合、感染力はありませんが、似たような症状が現れるため、判断が難しいこともあります。どちらの胃腸炎も適切な対処が必要であり、特に脱水症状や栄養不良に陥らないよう、初期段階からのケアが重要です。


風邪と胃腸炎の共通点とは?

風邪と胃腸炎はまったく別の病気ですが、初期症状が似ているため、しばしば見分けが難しくなることがあります。特に、微熱や全身のだるさ、頭痛、吐き気といった症状が共通していることから、「風邪かな?」と思って様子を見ていたら、実は胃腸炎だったというケースは少なくありません。

ウイルス感染症

その理由の一つに、ウイルスによる感染症である点が共通していることが挙げられます。風邪も胃腸炎も、原因となるウイルスが体に入り込んだことで免疫反応が起こり、発熱や倦怠感が現れるのです。さらに、体がウイルスと戦っている間は消化機能も低下するため、どちらの病気でも食欲不振や胃のムカつきを感じることがあります。

自律神経の乱れ

また、体調不良によって自律神経が乱れると、風邪でも胃腸炎でも同じように寒気や汗、軽い吐き気を感じることがあり、症状がより複雑に見えるのです。特に幼児や高齢者は体の反応がわかりにくく、どちらの症状かわからないまま時間が経ってしまうケースも多いです。

このように、風邪と胃腸炎には「発熱」「倦怠感」「吐き気」などの一見似ている共通点があるため、症状だけで完全に見分けるのは難しいことがあります。そのため、次に紹介する「見極めるためのポイント」を知っておくことが非常に重要です。


胃腸炎の主な症状を解説

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胃腸炎の典型的な症状には、「吐き気・嘔吐」「腹痛」「下痢」の3つがあり、それぞれの症状の出方や順番にも特徴があります。まず、感染後1〜2日の潜伏期間を経て突然の吐き気や嘔吐から始まることが多く、特にノロウイルスやロタウイルスの場合は、食事中や食後すぐに嘔吐するケースが目立ちます。続いて現れるのが腹痛と下痢です。腹痛はおへその周りや下腹部に生じることが多く、差し込むような痛みが特徴です。そして下痢は水のようにさらさらしており、1日に何度も排便があることもあります。便に血が混じっている場合は細菌性の胃腸炎(カンピロバクター、サルモネラなど)の可能性もあり、より注意が必要です。

発熱や脱水症状

また、軽度から中等度の発熱(37〜38度台)を伴うこともありますが、高熱が出るケースは比較的まれです。ただし、嘔吐や下痢が続くことで脱水症状を引き起こすため、水分補給ができないと体温調節がうまくいかず、結果的に高熱が出ることもあります。

症状の経過はウイルスの種類や体質によって異なりますが、1〜3日で軽快することが多いのが特徴です。しかし、症状が4日以上続く場合や、下痢が止まらない、嘔吐が頻繁、血便があるといった場合は、速やかに医療機関を受診すべきです。


風邪との違いを見極めるポイント

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風邪と胃腸炎は初期症状が重なる部分があるため、混同しがちですが、いくつかの「見極めポイント」を押さえることで、ある程度の判断が可能になります。まず大きな違いは、「症状がどこに現れているか」です。風邪の場合、主に上気道(鼻・喉)に症状が集中します。咳、くしゃみ、鼻水、のどの痛みといった呼吸器系の不調が中心で、吐き気や下痢といった消化器症状はあまり見られません。

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一方で胃腸炎は消化器(胃・腸)に症状が集中します。特に突然の吐き気、下痢、腹痛、そしてお腹の張りなど、胃腸が直接影響を受けていることが特徴です。咳や鼻水といった風邪特有の症状がほとんど見られない場合は、胃腸炎を疑った方がよいでしょう。また、風邪は「のどの痛み」から始まり、数日してから鼻や咳、発熱へと移行するケースが多く、症状の進行が比較的ゆるやかです。一方、胃腸炎は突然の吐き気や嘔吐で発症することが多く、急激な発症が大きな特徴です。

このように、症状の「部位・始まり方・進行の速さ」を観察することで、風邪か胃腸炎かを見極めるヒントになります。正しい判断が、適切な治療への第一歩となるのです。


胃腸炎と風邪の併発はある?

ウイルス性の複合感染

実は、胃腸炎と風邪の症状が同時に現れるケースもあります。これを「ウイルス性の複合感染」と呼び、特に冬季に多く見られます。例えば、風邪のウイルスに感染している間に、抵抗力が落ちた体に胃腸炎のウイルスが入り込み、両方の症状が出るというケースです。また、特定のウイルス、特にアデノウイルスやエンテロウイルスは、風邪のような症状(発熱、喉の痛み)と胃腸症状(嘔吐、下痢)を同時に引き起こすことがあるため、どちらの病気かを見分けるのが一層困難になります。
このような場合、のどの痛みや鼻水があるのに、嘔吐や下痢も始まったといった症状の重なりを確認することが重要です。複数のウイルス感染が疑われる場合は、症状が重くなる傾向があるため、早めの医療機関の受診が推奨されます。併発している場合、症状が長引きやすく、体力の消耗も激しくなります。十分な休養と水分補給を心がけると同時に、周囲への感染拡大を防ぐための衛生対策も欠かせません。


子どもや高齢者は特に注意が必要

胃腸炎は年齢に関係なく誰でもかかる病気ですが、特に注意が必要なのが乳幼児と高齢者です。これらの年齢層では、症状が急激に進行したり、脱水症状を起こしやすかったりするため、早期の対処が命に関わることもあります。

子どもの胃腸症状

子どもの場合、嘔吐が続くとすぐに水分が不足し、ぐったりしたり、尿の回数が減ったりといった脱水のサインが現れます。特に1歳未満の赤ちゃんでは、泣いても涙が出ない、口が乾いている、手足が冷たいなどの異変があれば、すぐに小児科へ連れて行くべきです。

大人の胃腸症状

高齢者もまた、体内の水分保持力が弱いため、下痢や発熱による脱水に注意が必要です。また、発熱や嘔吐が自覚しにくいことが多く、気づいた時には重症化しているというケースもあります。持病を抱えている方は、特に慎重に様子を見ることが重要です。

このようなリスク層では、自己判断せず、早めの医療相談を心がけることが、重症化を防ぐ最大のポイントとなります。


感染性胃腸炎の主な原因ウイルス

ノロウイルス

感染性胃腸炎を引き起こすウイルスにはいくつかの種類があり、それぞれに特徴的な症状や流行の時期があります。もっとも一般的なのは「ノロウイルス」で、冬に多く見られ、わずかな量でも感染力が非常に強いため、家庭内や施設内で一気に広がることがよくあります。主な症状は嘔吐、下痢、腹痛で、1〜2日で回復することが多いですが、脱水には注意が必要です。

ロタウイルス

「ロタウイルス」は、主に乳幼児がかかるウイルス性胃腸炎の原因で、便が白っぽくなるのが特徴です。水のような下痢と嘔吐が激しく、特に0〜2歳児で重症化するリスクが高いため、予防接種の導入が進んでいます。

他にも、「アデノウイルス」や「サポウイルス」「アストロウイルス」などが胃腸炎を引き起こす原因として知られています。これらは感染経路が似ており、手指や食べ物を介した経口感染が主なルートです。予防の基本は、やはり手洗いと食品衛生の徹底です。特にトイレやおむつ替えの後、調理前後などのタイミングで、石けんを使った手洗いを心がけましょう。


胃腸炎と食中毒の違い

胃腸炎とよく混同される病気に「食中毒」がありますが、両者には明確な違いがあります。胃腸炎はウイルスや細菌などが腸に感染して炎症を引き起こす疾患ですが、食中毒は汚染された食べ物や水を摂取することで発症する中毒症状です。

食中毒

食中毒の代表的な原因には「サルモネラ菌」「カンピロバクター」「黄色ブドウ球菌」「腸管出血性大腸菌(O157など)」などがあり、これらは摂取後6時間~数日以内に症状を起こします。典型的な症状は、腹痛、激しい下痢、吐き気、発熱です。血便が出る場合もあります。一方、ウイルス性胃腸炎は感染者との接触や飛沫、物品を介してうつるため、食べ物とは関係ないことも多く、家庭内や施設内で複数人が同時に発症するという特徴があります。
また、発症のタイミングにも違いがあります。食中毒は「何か特定のものを食べた後に、複数人が同じように症状を発した」といった経過をたどることが多く、食べたものの共通性がヒントになります。

症状が似ていても、対処法や感染経路が異なるため、「いつ・どこで・何を食べたか」の情報を整理することが、正しい診断と対応につながります。


胃腸炎が疑われるときの自宅での対処法

脱水を防ぐ

胃腸炎が疑われる場合、自宅での初期対応が非常に重要です。特に軽度の症状であれば、適切な対処により病院へ行かずとも数日で回復することがあります。ただし、症状の進行具合や体調に応じて慎重に判断する必要があります。
最も大切なのは、「脱水を防ぐこと」です。嘔吐や下痢が続くと体内の水分と電解質が急速に失われるため、こまめな水分補給が必要になります。ただし、一度に大量に飲むと再び吐いてしまうことがあるため、「少量をこまめに」摂るのがポイントです。経口補水液(OS-1など)は塩分や糖分のバランスがとれており、最も推奨されます。

生活習慣を整える

食事は、吐き気が落ち着くまでは無理に摂らず絶食が基本です。胃腸が落ち着いてきたら、おかゆ、うどん、りんごのすりおろしなど、消化の良いものを少量ずつ摂るようにします。油ものや乳製品、刺激物は避けましょう。安静にすることも重要です。胃腸炎は体力の消耗が激しいため、しっかりと睡眠を取り、体を回復させる時間を与えてあげる必要があります。家族に感染を広げないよう、タオルや食器の共用を避け、こまめな手洗いと消毒も徹底しましょう。

市販薬で様子を見るべきか、病院へ行くべきか

軽度の胃腸炎であれば市販の整腸薬や下痢止めで様子を見ることも可能ですが、すべての症状に対して自己判断で薬を使うのは危険です。たとえば、感染性胃腸炎の場合はウイルスや細菌を体外に出すことが大切なので、下痢止めを使うと回復が遅れる可能性があります。

以下のような症状が見られる場合は、速やかに医療機関を受診すべきです。

・嘔吐・下痢が1日以上続く
・高熱(38.5℃以上)がある
・血便が出る
・水分が摂れない、またはすぐ吐いてしまう
・ぐったりしている、意識がぼんやりしている

特に子どもや高齢者の場合は、脱水の進行が早いため、症状が軽くても注意深く観察することが大切です。市販薬を使用する際は、「胃腸薬」「整腸剤」「吐き気止め」など成分を確認し、必ず用法容量を守りましょう。不安がある場合は、薬剤師に相談するのも安心です。


胃腸炎が長引く場合の原因と対処法

1週間以上症状が続く場合

通常、ウイルス性胃腸炎は数日以内に自然と軽快することが多いですが、1週間以上症状が続く場合や、何度も繰り返す場合は別の原因を疑う必要があります。たとえば、「カンピロバクター」や「サルモネラ」などの細菌感染が原因の場合、症状が強く長引く傾向があります。この場合は抗菌薬による治療が必要となるため、医療機関での検査と処方が必須です。

過敏性腸症候群や潰瘍性大腸炎

また、「過敏性腸症候群(IBS)」や「潰瘍性大腸炎」といった慢性的な腸の病気が原因で、胃腸炎と似た症状を起こしている可能性もあります。これらは自己判断では治療できないため、内科または消化器内科の受診が必要です。

加えて、「ストレス」や「食生活の乱れ」が原因で消化機能が低下しているケースもあります。生活習慣の見直し、十分な睡眠、適度な運動なども回復への一助になります。


再発を防ぐための衛生管理と予防策

胃腸炎は再発しやすい病気の一つです。特にノロウイルスなどは非常に感染力が強いため、同じ家庭や施設内で繰り返し感染が広がることがあります。予防の基本は、やはり「衛生管理」です。

衛生管理

まず、手洗いは最も効果的な予防策です。外出後、トイレ後、食事や調理の前後などに、石けんを使って30秒以上丁寧に洗いましょう。アルコール消毒はウイルスに効かない場合があるため、流水と石けんでの手洗いが必須です。調理に使う器具は熱湯や次亜塩素酸ナトリウムで定期的に消毒し、加熱調理は中心部までしっかり火を通すことが大切です。特にカキなどの二枚貝はリスクが高いため、十分に加熱しましょう。

消毒

また、感染者がいる場合には、便や吐しゃ物の処理時に手袋・マスクを着用し、塩素系消毒剤でしっかり除菌を行います。空気中への飛沫感染を防ぐため、換気も大切です。予防の徹底こそが、家族全員の健康を守る最善策です。

 


よくある質問(FAQ)

胃腸炎と風邪はどうやって見分ければいいですか?

主な違いは症状が現れる部位です。風邪は「のどの痛み」「鼻水」「咳」などの呼吸器症状が中心ですが、胃腸炎は「嘔吐」「下痢」「腹痛」といった消化器症状が中心です。また、胃腸炎は突然始まることが多いのに対し、風邪はゆっくり進行するのが特徴です。

胃腸炎になったとき、市販薬は使っても大丈夫ですか?

軽度の症状であれば整腸剤や胃腸薬などで様子を見るのも一つの方法です。ただし、感染性胃腸炎では下痢止めが逆効果になる場合もあるため、症状が重い・長引く場合は自己判断を避け、医師に相談してください。

子どもが胃腸炎になったとき、何を食べさせればいいですか?

吐き気や下痢が治まってから、まずは「おかゆ」「うどん」「りんごのすりおろし」などの消化に良いものを少量ずつ与えましょう。牛乳や油っこい食事、冷たいものは避け、徐々に通常の食事に戻していきます。

胃腸炎がうつるのはどんなタイミングですか?

感染性胃腸炎は、嘔吐物や便に含まれるウイルスが手や物を介して口に入ることでうつります。トイレや食事前後の手洗い、タオルの共有を避けることが感染拡大の防止に重要です。

風邪と胃腸炎が同時に起こることはありますか?

はい、あります。特にアデノウイルスなどは、風邪の症状(のどの痛み、発熱)と胃腸症状(下痢、嘔吐)を同時に引き起こすことがあるため、症状が複雑な場合は医師の診断を受けるのが安心です。

胃腸炎になったとき、いつ病院に行けばいいですか?

嘔吐や下痢が1日以上続く、水分が摂れない、血便が出る、高熱がある、ぐったりしているなどの症状がある場合は、すぐに医療機関を受診してください。子どもや高齢者は特に早めの対応が大切です。