
院長 友利 賢太
資格
- 医学博士(東京慈恵会医科大学)
- 日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
- 日本大腸肛門病学会 大腸肛門病専門医
- 日本消化器病学会 消化器病専門医
- 日本消化器外科学会 消化器外科専門医・指導医
- 日本消化器外科学会 消化器がん外科治療認定医
- 日本消化器内視鏡学会
上部消化管内視鏡スクリーニング認定医 - 日本消化器内視鏡学会
大腸内視鏡スクリーニング認定医 - 日本外科学会 日本外科学会専門医
- 日本消化管学会 消化管学会専門医
- 日本ヘリコバクター学会 H. pylori 感染症認定医
- 4段階注射療法受講医
- 東京都難
目次
お腹が鳴るとはどんな現象?
ゴロゴロ・グーの音の正体

私たちの「お腹が鳴る」という現象は、専門的には「腸音」または「ぜん動音」と呼ばれます。これは、腸の中を食べ物・消化液・空気(ガス)が移動するときに発生する音です。腸は常に一定のリズムで動いており、この運動によって中の物質が押し出されていく過程で音が生じます。この音が大きく聞こえるのは、腸内に溜まった空気が多かったり、腸の動きが一時的に活発になっていたりするからです。また、腸の中に固形物が少なくなると、ガスがより自由に移動しやすくなるため、より音が鳴りやすくなります。つまり、お腹の音は、腸の“働き者”っぷりを表す健康なサインとも言えます。
空腹時と満腹時の違い

一般に「お腹が空くと鳴る」とよく言われますが、これは単なる迷信ではありません。空腹時、胃腸は“空腹期収縮運動(MMC:Migrating Motor Complex)”という特別な活動を始めます。この収縮運動は、胃や腸の中を“お掃除”するように残った食べかすや粘液を押し出すためのものです。このとき、空気やガスも一緒に押し流されるため、「グーッ」という特徴的な音が発生するのです。
一方、食後も腸は休むことなく活動を続けており、食物と消化液が混ざり合いながら小腸を移動します。この過程でも“グルグル”“ゴロゴロ”といった音が聞こえることがあります。つまり、空腹時も満腹時も腸が音を立てるのは自然なことであり、健康な証拠とも言えるでしょう。ただし、食後に極端に音が大きくなったり、不快な感覚を伴う場合には、消化機能に異常がある可能性も考えられます。
音のタイプ別に考える腸の状態
高音のゴロゴロ vs 低音のゴボゴボ
お腹の音には種類があります。例えば「キュルキュル」や「ピーピー」といった高音は、腸の運動が過剰な状態、または腸管が狭くなっている(狭窄)ときに発生しやすいです。反対に、「ゴボゴボ」や「ボワン」といった低音は、腸に内容物がたまっていたり、ガスが多くなっていたりするときに聞かれます。音の種類によって腸の動きや状態をある程度把握することができるため、気になる方は日々の体調と照らし合わせて記録しておくとよいでしょう。
動きが速い vs 遅い腸の音
腸の音が頻繁に鳴る場合は、腸の動きが速くなっている状態、つまり「過活動」です。これはストレスやカフェイン、辛いものの摂取後に起こりやすく、一過性であれば心配はありません。一方、音が全くしない、または急に音が止まった場合、腸の動きが弱まっている「低活動」の状態です。これは便秘、腸閉塞、または重篤な全身疾患のサインであることもあります。音が少ない状態が続くときも要注意です。
病院に行くべき症状とは?
お腹の音に伴う危険なサイン

以下のような症状が「お腹の音」とともに現れる場合は、すぐに医療機関での診察を受けましょう。
・お腹の音に強い腹痛が伴う
・音のあとに頻繁な下痢や血便がある
・長期間にわたりお腹がゴロゴロ鳴る状態が続いている
・食欲低下、体重減少、発熱などの全身症状がある
・ガスが異常に多い、または逆にガスが出ない
これらは消化器系の深刻な疾患の初期症状であることがあります。特に音が「異常に高音でキュルキュル鳴る」か「音がしなくなった」という場合は、腸閉塞など命に関わる状態の可能性もあるため、早期受診が必要です。
何科を受診すべきか
基本的には、内科または消化器内科を受診しましょう。必要に応じて、腹部エコー、レントゲン、血液検査、便検査、内視鏡検査などが行われ、腸の状態が総合的に評価されます。
食事の摂り方の見直し
食生活の見直し
お腹がゴロゴロ鳴るのを防ぐためには、日々の食事の摂り方を見直すことが非常に重要です。まず第一に意識すべきは、「よく噛んで食べる」という基本的な行動です。しっかり噛むことによって唾液と消化酵素が食べ物に十分に混ざり、胃や腸への負担が軽減されます。また、空気を一緒に飲み込む量も減らすことができ、嚥下性空気によるガスの発生が抑えられます。
食事の時間や量の改善

次に、食事の時間や量にも注意を払う必要があります。空腹時間が長くなりすぎると、腸は空の状態で収縮を繰り返し、空気とともに発生したガスが動くことで強い音が鳴る原因となります。そのため、極端に食間を空けないよう、1日3食規則正しく食べる、または間食を適度に取り入れることも有効です。
早食いや刺激物の摂りすぎ
さらに、早食いや炭酸飲料、刺激物の摂りすぎも腸に悪影響を及ぼす要因です。食べるスピードが速いと、十分に咀嚼されていない食物がそのまま胃腸に届き、消化に時間がかかって腸内の発酵を招きます。また、炭酸飲料は飲んだ時点で大量のガスを含んでおり、そのまま腸に到達してお腹の音を助長する場合があります。
日々の習慣を少し変えるだけでも、腸内の活動やガスの発生が落ち着き、音の頻度や強さが改善することがあります。自分の食事スタイルを一度見直し、無理のない範囲で改善を心がけていくことが、お腹の音対策には効果的です。
腸活・発酵食品の活用
腸内環境の改善

腸内環境の改善、いわゆる「腸活」は、腸のぜん動運動を整え、ガスの発生を抑えることで、お腹がゴロゴロ鳴るのを予防する強力な方法です。私たちの腸内には100兆個以上の細菌が存在し、善玉菌、悪玉菌、日和見菌のバランスが整っていると、腸内での発酵活動が穏やかになり、余分なガスが発生しにくくなります。これにより、腸内で音が生じにくくなるのです。
発酵食品の摂取
腸活を行ううえで重要なのが、善玉菌を含む発酵食品の摂取です。ヨーグルト、納豆、味噌、キムチ、ぬか漬けなどの食品には乳酸菌やビフィズス菌といった善玉菌が豊富に含まれており、腸内に届くことで腸の状態を整えます。また、善玉菌の栄養源となるプレバイオティクス(食物繊維やオリゴ糖など)も意識して摂ることで、善玉菌が腸内で定着しやすくなります。
しかし、どんなに良い食品を食べても、短期間で劇的な効果が出るものではありません。腸内環境は毎日の食生活と密接に結びついているため、少しずつでも継続して取り入れることが必要です。また、腸活をする際には、過剰な乳製品の摂取に注意することも大切です。人によっては乳糖不耐症により逆にお腹が緩くなってしまうこともあるため、自分の体質に合った腸活方法を選ぶことが成功のポイントです。
ストレス緩和と睡眠の改善
自律神経の乱れ
腸は「第二の脳」とも呼ばれており、心の状態と非常に密接な関係があります。強いストレスや精神的な緊張が加わると、自律神経のバランスが乱れ、腸のぜん動運動が過敏になったり鈍くなったりすることで、腸内の空気やガスの動きが活発化し、ゴロゴロとした音が生じやすくなります。特に交感神経が過剰に働くと、腸が収縮して動きすぎることになり、結果的に音が増えるだけでなく、腹痛や便意などを誘発することもあります。このような状態では、腸の調子そのものが不安定になっているため、精神的な安定がとても重要です。
ストレスや寝不足
日常的なストレスを減らす方法としては、深呼吸やストレッチ、散歩などの軽い運動、自然とのふれあい、読書や趣味の時間など、自分自身が「安心できる時間」を意識的に設けることが効果的です。中でも、夜の睡眠の質を高めることは、自律神経を整えるうえで非常に大切な要素です。良質な睡眠は、副交感神経を優位にし、腸を休ませて回復させる時間を作ってくれます。逆に、寝不足や不規則な生活は腸の機能低下を招き、音や腹部不快感が続く原因となります。就寝の2時間前にはスマートフォンの使用を控え、リラックスできる環境を整えて、深い睡眠を確保することが、お腹の音を静かに保つための第一歩です。
子どもや高齢者のお腹の音

成長期の腸音と消化力
子どもや若年層では、消化吸収の能力が旺盛で、代謝も高いため、空腹になる時間が短く、早い段階で腸の収縮が始まることが多くあります。そのため、朝の授業中や部活動の後などに、空腹による「グーグー」というお腹の音が目立つのは自然なことです。成長期にはエネルギー消費量が多く、体が食物を求めて積極的に腸を動かすため、音も大きく聞こえるのです。また、子どもの腸は大人に比べて腸壁が薄く、動きが活発なため、同じ条件下でも音が目立つ傾向にあります。これは決して異常ではなく、消化管が健康に働いている証拠でもあるため、過度に心配する必要はありません。ただし、頻繁にお腹を壊したり、便の状態が不安定な場合は、小児消化器の専門医に相談することが大切です。
加齢による腸の動きの変化
一方、高齢者では、年齢とともに腸の筋肉の力が弱まり、ぜん動運動が低下してきます。その結果として便秘がちになり、腸内にガスが溜まりやすくなるため、突然「ボコッ」「ボワン」といった音が目立つことがあります。加えて、唾液や胃酸の分泌量が減少することにより、食べ物の消化がスムーズに進まず、腸内にとどまる時間が長くなることも、お腹の音を助長する原因です。
また、高齢になると、筋力の低下によって腹圧が弱まり、ガスを押し出す力も弱まります。これにより、腸内でガスが溜まりやすくなり、音として表に出てくるのです。腸の動きは加齢により個人差が大きくなるため、日頃の食事や運動、十分な水分摂取などを通じて腸内環境を意識して整えることが大切です。特に高齢者は、ちょっとした不調が大きな病気のサインであることもあるため、異常な音が続いた場合には医師の診察を受けることをおすすめします。
腸内環境とお腹の音の関係
腸内フローラ

腸内にはおよそ100兆個を超える腸内細菌が存在しており、そのバランスが腸の健康を大きく左右しています。この腸内細菌の集まりは「腸内フローラ」とも呼ばれ、善玉菌、悪玉菌、日和見菌の3つのグループが絶妙なバランスを保ちながら共存しています。
善玉菌が優位な状態であれば、腸内環境は整い、ガスの発生や腸の過剰な動きは抑えられます。反対に悪玉菌が増えてしまうと、腸内での発酵や腐敗が進み、ガスが多く発生しやすくなり、結果としてお腹のゴロゴロ音が頻繁に聞こえるようになります。また、悪玉菌の増殖は腸の粘膜を刺激し、ぜん動運動を活発にしてしまうこともあります。
腸内フローラを良好に保つには、食生活が最も重要です。偏った食事、脂質の多い加工食品、野菜不足などは悪玉菌の好物であり、それらが腸内環境を悪化させる原因になります。一方で、発酵食品や食物繊維の豊富な食材は、善玉菌を増やし、腸の動きを穏やかに保つための味方です。
特に腸内環境が悪化していると、ガスが溜まりやすくなり、音だけでなく腹部膨満感や不快感、便秘や下痢などさまざまな不調を引き起こします。つまり、お腹の音をコントロールするためには、日々の食生活や生活習慣を見直し、腸内環境を整えることが、根本的な解決につながるのです。
お腹の音から考えられる疾患
お腹の音が頻繁に聞こえたり、音が急に大きくなったりした場合、それは単なる空腹や食事の影響とは異なる、身体からの重要なサインである可能性もあります。実は、特定の疾患が原因で腸の運動が過剰または不安定になり、お腹が鳴る症状が目立つようになることがあります。以下では、代表的な病気とその特徴について詳しく解説します。
過敏性腸症候群(IBS)

まず最も一般的なのが過敏性腸症候群(IBS)です。この疾患は腸に明らかな構造的異常がないにも関わらず、腹痛、ガスの溜まり、便秘や下痢、そしてお腹の音など、多様な症状を引き起こします。IBSではストレスや生活リズムの乱れが誘因となり、腸のぜん動運動が過剰になって音が強くなることがあります。症状は慢性的で波があり、生活の質を著しく低下させることもあります。
炎症性腸疾患(IBD)
次に挙げられるのが、炎症性腸疾患(IBD)です。具体的にはクローン病や潰瘍性大腸炎などの慢性的な腸の炎症を伴う疾患で、腸内でのガスの動きが活発になり、異常な腸音が生じることがあります。これらは腹痛、血便、下痢、体重減少などを伴う重篤な疾患であり、早期診断と治療が不可欠です。腸の狭窄や炎症によって腸内での内容物の流れが阻害されると、腸音が異常に高音で鋭くなることもあります。
腸閉塞や膵臓や胆のうの疾患
また、腸閉塞(イレウス)も考えられる重篤な疾患です。初期段階では「キュルキュル」「チューチュー」といった高音性腸音が聞こえ、腸が詰まりかけている状態を示しています。進行すると音が完全に消失し、腸の活動が止まった状態になります。このような場合は緊急手術を要するケースもあるため、音の有無を冷静に見極めることが非常に重要です。さらに、膵臓や胆のうの疾患(慢性膵炎、胆石症)によっても間接的に腸の動きに異常をきたし、音が増えることがあります。消化液の分泌異常により、食物がうまく分解されずに腸内で発酵が進み、ガスが発生するためです。
このように、お腹の音一つとっても、多くの病気の予兆や指標となる可能性があります。音の変化に気づいたら、自分の体調や食事、排便状態を合わせてチェックし、必要に応じて専門の医療機関で相談することが大切です。特に、「今までと違う種類の音が続く」「お腹が鳴るだけでなく痛みや下痢を伴う」といった場合は、何らかの疾患が進行している可能性があるため、放置せず早めの対応が望まれます。
よくある質問(FAQ)
お腹が鳴るのは空腹のサインですか?
必ずしも空腹のサインとは限りません。空腹時に起こる空腹期収縮によって音が鳴ることはありますが、食後にも腸が活発に動くことで音がすることはあります。つまり、腸の活動によって音が生じているという点では、満腹時でも起こり得る生理的現象です。
お腹が鳴らなくなったのは健康だから?
音がまったく鳴らなくなった場合、必ずしも良いサインとは限りません。腸閉塞や腸の動きが著しく低下している状態では、音が消失することがあります。普段に比べて音が極端に減った、または完全になくなった場合には、医師の診察を受けることが望ましいです。
人前で鳴ってしまうのが恥ずかしいです。どうすれば?
人前での緊張が原因で交感神経が刺激され、逆に腸が活発に動くことがあります。事前に軽く何かを食べておく、呼吸を深くしてリラックスする、温かい飲み物を飲むなどで対策ができます。対処法を持っているだけで安心感が増し、症状自体が軽くなることもあります。
毎日お腹が鳴りますが、病院に行くべき?
頻繁に鳴るだけで他に症状がなければ、基本的には様子を見て問題ありません。ただし、下痢、腹痛、血便、体重減少、食欲不振などを伴う場合は、消化器科を受診してください。腸の病気が隠れている可能性もあるため、早期発見が大切です。
薬でお腹の音を止めることはできますか?
整腸剤や乳酸菌サプリメントなどを使って腸内環境を整えることで、音を減らすことは可能です。ただし、薬に頼りすぎず、根本的な原因にアプローチすることが最も大切です。自己判断で薬を使用するのではなく、症状が長引く場合は医師に相談しましょう。
音が大きくなってきた気がします。年齢のせい?
加齢によって腸の動きが鈍くなる一方で、ガスの排出がうまくできなくなるため、音が目立つようになることがあります。特に便秘がちになっている場合、腸内にガスが溜まりやすくなるため、音の大きさが増すことがあります。

