
院長 友利 賢太
資格
- 医学博士(東京慈恵会医科大学)
- 日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
- 日本大腸肛門病学会 大腸肛門病専門医
- 日本消化器病学会 消化器病専門医
- 日本消化器外科学会 消化器外科専門医・指導医
- 日本消化器外科学会 消化器がん外科治療認定医
- 日本消化器内視鏡学会
上部消化管内視鏡スクリーニング認定医 - 日本消化器内視鏡学会
大腸内視鏡スクリーニング認定医 - 日本外科学会 日本外科学会専門医
- 日本消化管学会 消化管学会専門医
- 日本ヘリコバクター学会 H. pylori 感染症認定医
- 4段階注射療法受講医
- 東京都難
目次
薬の副作用とは?なぜ消化器に影響が出やすいのか
薬には、目的の治療効果とは別に、思わぬ副作用が現れることがあります。これらの副作用は、全身にさまざまな形で現れますが、その中でも消化器系の症状は最も頻度が高く、誰にでも起こり得る身近な問題です。薬の副作用と消化器の関係を正しく理解しておくことは、体調不良を見逃さず、早期に適切な対処をする上で非常に重要です。
①消化器官のしくみと薬の吸収経路
薬は、私たちの体に取り込まれたあと、胃や小腸などの消化器を経由して吸収されます。経口薬(飲み薬)の場合、まず口から食道を通って胃に到達し、そこで胃酸の影響を受けながら、次に小腸で吸収され、血液を介して全身に運ばれていきます。この“消化器官を通る”という特性上、薬の成分はまず消化管の粘膜や腸内環境に直接影響を与えることになるため、副作用が出やすい部位となっているのです。
また、胃や腸の粘膜は非常に繊細で、わずかな刺激でも炎症や不快感が起こることがあります。特に胃は、空腹時に薬が入ると、粘膜が直接薬剤成分にさらされ、炎症や胃痛を引き起こすリスクが高まります。薬が体に吸収されるというプロセス自体が、消化器系にとっては“リスク”にもなり得るのです。
②副作用として現れやすい理由
もう一つ、消化器系に副作用が出やすい理由は、「腸内フローラ」と呼ばれる腸内細菌のバランスにあります。腸には約1,000種類、100兆個とも言われる細菌が存在し、免疫や代謝をコントロールする役割を果たしています。しかし、抗生物質など一部の薬はこのバランスを崩してしまい、善玉菌が減り悪玉菌が増えることで、下痢や腹痛などの症状を引き起こします。
また、薬によっては神経系やホルモン系に作用し、その影響が消化管の運動や分泌機能に波及して、結果的に便秘、下痢、吐き気、胃もたれなどとして現れることもあります。つまり、薬の副作用が消化器に集中するのは、構造的にも機能的にも非常に“影響を受けやすい臓器群”だからなのです。
薬で起こる主な消化器症状一覧
薬の副作用として現れる消化器系の症状は非常に幅広く、程度も人によって大きく異なります。ここでは、特に多くの人が経験する代表的な症状について詳しく解説します。
①吐き気・嘔吐
最もよく見られるのが「吐き気」です。薬を飲んだ直後にムカムカする感じや、食後に薬を服用した際に気分が悪くなるというケースは非常に多く、特に抗がん剤、ホルモン治療薬、脳神経に作用する薬などは、強い吐き気を誘発しやすいとされています。
吐き気は、薬が胃を直接刺激した結果起こる場合と、薬が中枢神経系に影響を及ぼして「脳の嘔吐中枢」を刺激することで発生するケースに大別されます。前者は薬の種類や服用タイミング(食前・食後)によって改善できることがあり、後者は予防的に吐き気止めを併用することもあります。
②下痢・軟便
抗生物質や抗がん剤など、腸内環境に影響を与える薬では、腸の蠕動運動が過剰になり、水分が十分に吸収されないまま排泄されることで「下痢」や「軟便」が引き起こされます。
さらに、抗生物質によって腸内の善玉菌が減少し、悪玉菌(たとえばクロストリジウム・ディフィシル)が増殖すると、激しい下痢と腹痛、発熱を伴う「偽膜性腸炎」という深刻な症状に至ることもあります。市販薬で対処しようとせず、早急な医師の判断が必要となるケースです。
③胃痛・胃もたれ
NSAIDs(ロキソニン、バファリンなどの鎮痛剤)を代表とする薬剤は、胃の粘膜を守る「プロスタグランジン」の分泌を抑えてしまうため、長期的な服用によって胃の粘膜が損傷を受けやすくなります。その結果、胃のむかつきや痛み、空腹時のキリキリとした痛み、さらには胃潰瘍のリスクにもつながります。こうした副作用は、特に空腹時の服用やアルコールの摂取と重なったときに悪化する傾向があります。
④便秘・腹部膨満感
一部の精神安定剤や抗コリン薬、オピオイド系鎮痛薬などでは、腸の動きを鈍らせる作用があるため、排便が困難になり、便秘が慢性化することがあります。便が長く腸内に滞ることで、腹部にガスが溜まり、膨満感や圧迫感を訴える人も少なくありません。便秘は「副作用」として軽視されがちですが、長期的には生活の質を大きく下げ、痔や直腸炎のリスクにもつながるため、早めの対処が大切です。
薬の種類別に見られる消化器症状の特徴
どんな薬が、どのような消化器トラブルを引き起こしやすいのかを把握しておくことで、副作用に対するリスクマネジメントが可能になります。薬の分類ごとに、典型的な症状とそのメカニズムを説明します。
抗生物質・NSAIDs(鎮痛薬)
抗生物質は、悪い菌だけでなく善玉菌も殺してしまうため、腸内フローラのバランスが乱れやすく、軽い下痢から重度の腸炎まで幅広い症状を引き起こすことがあります。
一方で、NSAIDsはその抗炎症作用の裏で、胃の防御機能を弱めるという副作用を持っています。長期間の服用で胃潰瘍・出血を起こす可能性があるため、予防的に胃薬(PPIやH2ブロッカー)を処方されることも多いです。
鉄剤・ビタミン剤・漢方薬
鉄剤は、特に妊娠中や貧血治療に処方されますが、胃の不快感、吐き気、便秘、さらには便の黒色化といった副作用が見られます。服用後しばらく横になると悪化することもあります。
ビタミン剤も、特定の成分(たとえばビタミンCの大量摂取)で胃の不快感を訴える方がいます。さらに漢方薬では、体質に合わない場合に、消化器症状が現れることもあり、自然成分だから安全とは限りません。
抗がん剤・免疫抑制剤
抗がん剤は細胞分裂の活発な部位に影響を与えるため、腸の粘膜細胞もその影響を受けやすく、吐き気や下痢が高頻度で発生します。また、口腔内にも影響が及び、口内炎や味覚異常も伴うことがあります。
免疫抑制剤は、免疫系に働きかける分、腸のバリア機能も低下させやすく、感染性の腸炎など二次的な問題を引き起こすこともあります。これらの薬剤は副作用管理が極めて重要で、事前の対策や定期的なモニタリングが欠かせません。
薬の副作用か病気の兆候か?見分けのポイント
薬を飲んで体調に異変を感じたとき、それが薬の副作用によるものなのか、それとも新たな病気のサインなのか、見極めに迷うことは少なくありません。特に、消化器症状は多くの疾患とも共通しているため、自己判断では正確な診断が難しい場合もあります。
①症状の発現時期と服薬の関係を確認する
まず注目すべきは、「いつから症状が出始めたか」です。薬を服用し始めてから数時間〜数日以内に胃痛や吐き気、下痢などの症状が現れた場合は、薬の副作用である可能性が高いと考えられます。また、薬を飲んだ直後に気分が悪くなる、食後に薬を飲んで胃がムカムカするなど、服用タイミングと症状発現が一致していれば、副作用と考える根拠になります。
一方、薬を飲み始めてからしばらく経ってから症状が出た場合や、薬をやめても症状が続く場合は、他の病気が関与している可能性も否定できません。そのため、症状が続くかどうか、薬をやめることで改善するかなど、経過をよく観察することが重要です。
②他の臓器の異常や体調変化にも注意を払う
副作用による症状では、消化器以外にも全身症状や他の臓器の異変が現れることがあります。たとえば、発熱、発疹、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)などがあれば、肝機能障害やアレルギー反応の可能性もあります。また、強い倦怠感、動悸、めまいを伴う場合には、薬剤性の心機能や血液異常が隠れていることも考えられます。
消化器症状にとどまらず、全身の症状や精神的な変化も含めて広い視野で観察することが、副作用かどうかの判断材料となります。気になる症状が複数重なっている場合や、日常生活に支障を来すような場合には、早めに医師の診断を仰ぐことが大切です。
自己判断は危険!受診すべきタイミングと対処法
薬によって起こる消化器症状の中には、放っておくと悪化するものもあります。初期の軽い不調だからといって様子を見続けるのではなく、適切なタイミングで医師に相談することが、重大な副作用を未然に防ぐ第一歩になります。
医師に相談すべき症状の基準
以下のような状況に当てはまる場合は、すぐに受診することをおすすめします。
-
- 吐き気や嘔吐が1日中続き、水分が摂れない
- 下痢が1日5回以上あり、脱水の兆候(口の渇き、尿量の減少、めまいなど)が出ている
- 空腹時や夜間に胃痛が強くなる、胃の違和感が数日間続く
- 便が黒色になっている(胃腸出血の可能性)
- 服薬後に腹部の激痛、発熱、黄疸、意識障害などが起こる
これらは単なる消化器症状の範囲を超え、急性の消化管出血や感染症、肝障害など重篤な副作用のサインであることがあります。医師に伝える際には、「どの薬をいつから服用しているか」「症状が出始めた時期」「薬を飲まなかった時の症状の変化」などを明確にしておくと、正確な診断と迅速な処置につながります。
薬の中止・変更の判断基準
「この薬で体調が悪くなっているかもしれない」と感じたとしても、自己判断で薬を中止することは非常に危険です。特に、抗菌薬やステロイド、抗がん剤、精神薬などは、急にやめることで病状が悪化したり、離脱症状が起こるリスクもあります。
消化器症状が出た際の適切な対処は、まず医師または薬剤師に相談することです。場合によっては、同じ効果を持つ別の薬に変更できることもあり、医師が症状を見極めたうえで薬の調整や胃腸の保護薬の追加処方などを提案してくれる場合もあります。
特定の薬が合わない体質である可能性もあるため、症状が出た薬の名前や処方履歴は今後の医療にも役立つ大切な情報となります。薬局で購入した市販薬の場合でも、パッケージや成分表示を保管しておくと相談時にスムーズです。
副作用のリスクを下げるためにできること
薬による副作用を完全に防ぐことは難しいものの、日常のちょっとした工夫や服用方法の見直しで、リスクを大幅に軽減することができます。
①空腹時の服用回避・水分摂取・飲み合わせの工夫
胃の不快感や胃痛を起こしやすい薬は、空腹時の服用を避けることが基本です。薬の添付文書や医師の指示に従い、食後または食間に服用するなど、タイミングを調整するだけでも症状が緩和されることがあります。
また、十分な水分(コップ1杯以上)で薬を服用することも重要です。水が少ないと薬が食道や胃にとどまり、粘膜に刺激を与えてしまうことがあります。さらに、他の薬や食品との飲み合わせにも注意が必要です。たとえば、牛乳やジュース、カフェイン、アルコールと一緒に薬を飲むことで、薬の吸収や代謝が変化し、副作用のリスクが高まることもあります。
②服薬時の生活習慣チェック
薬の効果や副作用は、体調や生活習慣によっても変わります。睡眠不足、過度なストレス、不規則な食事、運動不足などが重なると、薬に対する体の反応が過敏になり、普段は問題ない薬でも不調を引き起こすことがあります。
また、慢性疾患で複数の薬を長期間服用している方は、定期的に服薬内容の見直しを行うことが推奨されます。医師に頼るだけでなく、自分でも「この薬はいつから飲んでいるか」「最近変わった薬はあるか」といった情報を意識することが、安心で安全な服薬生活の第一歩になります。
よくある質問(FAQ)
薬を飲むとすぐにお腹がゆるくなるのですが、副作用ですか?
はい、薬の副作用として下痢や軟便はよく見られます。特に抗生物質は腸内細菌のバランスを崩すため、服用後に腸が過敏になって下痢が起こることがあります。症状が軽く短期間で収まる場合は様子を見ても構いませんが、続くようであれば医師に相談し、薬の変更や整腸剤の併用が検討されます。
薬の副作用で起こる胃痛は放っておくと危険ですか?
胃痛が薬の副作用である場合、放置することで胃炎や胃潰瘍に進行するリスクがあります。特にNSAIDs(解熱鎮痛薬)を空腹時に服用していると、胃粘膜の防御機能が弱まりやすくなります。痛みが継続する場合や、黒色便・血便などがある場合はすぐに医療機関を受診しましょう。
漢方薬でも副作用が出ることはありますか?
漢方薬は自然由来の成分を使用していますが、副作用がないわけではありません。体質に合わない場合、下痢や吐き気、胃の不快感が起こることがあります。また、複数の漢方を併用したり、長期間使用すると胃腸に負担がかかることもあるため、服用中に違和感を感じたら中止して医師または薬剤師に相談してください。
市販薬でも胃腸に副作用が出ることがありますか?
はい、市販薬でも用法や体調に合わない場合、副作用が起こることがあります。例えば、鎮痛剤や風邪薬には胃を刺激する成分が含まれていることが多く、食後であっても胃痛や吐き気が出る人もいます。特に複数の市販薬を併用する場合は成分の重複に注意が必要です。
副作用を防ぐために薬を食後に飲んでも大丈夫ですか?
多くの薬は食後に服用することで胃への刺激を抑える効果が期待できます。ただし、薬によっては「食前」「空腹時」「就寝前」など指定されたタイミングがあります。自己判断でタイミングを変更せず、必ず医師や薬剤師の指示に従いましょう。必要に応じて、胃薬を併用するという方法もあります。
何日くらい様子を見てから病院へ行けばよいですか?
原則として、薬による吐き気や胃痛が2日以上続く場合、または症状が強まっていく場合は早めに受診してください。下痢や嘔吐がひどく、水分すら摂取できない場合は1日以内でも医療機関を受診することが推奨されます。早めの対応が重症化を防ぎます。

