

院長 友利 賢太
資格
- 医学博士(東京慈恵会医科大学)
- 日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
- 日本大腸肛門病学会 大腸肛門病専門医
- 日本消化器病学会 消化器病専門医
- 日本消化器外科学会 消化器外科専門医・指導医
- 日本消化器外科学会 消化器がん外科治療認定医
- 日本消化器内視鏡学会
上部消化管内視鏡スクリーニング認定医 - 日本消化器内視鏡学会
大腸内視鏡スクリーニング認定医 - 日本外科学会 日本外科学会専門医
- 日本消化管学会 消化管学会専門医
- 日本ヘリコバクター学会 H. pylori 感染症認定医
- 4段階注射療法受講医
- 東京都難
目次
なぜげっぷが頻繁に出るのか?
げっぷは生理的な現象であり、多くの人が日常生活の中で何気なく経験しています。しかし、それが1日に何度も続くようになると、単なる生活習慣の問題ではなく、身体の中に何か異変が生じている可能性もあります。げっぷが頻繁に出る理由を理解するためには、まず胃と食道の構造、そして空気の流れに注目する必要があります。
通常、食事の際には食物とともにわずかな空気を飲み込むのが自然な流れです。この空気は胃の中で一時的に留まり、その後、げっぷとして排出されることで胃の内圧を調整する役割を果たしています。しかし、食事の仕方や心理状態、胃腸の働き方に異常があると、空気の飲み込みが過剰になり、げっぷの頻度が著しく増えてしまうことがあります。
たとえば、早食いや会話をしながらの食事、熱いものや冷たいものを一気に口にする行為は、知らず知らずのうちに大量の空気を飲み込む原因になります。このような習慣が繰り返されると、胃に過剰な空気が溜まりやすくなり、頻繁にげっぷとして出てくることになります。また、炭酸飲料やビールなどガスを含む飲み物も、胃内にガスを蓄積させる要因となりやすく、頻繁なげっぷに拍車をかけます。
一方で、精神的な要因もげっぷの頻度に大きく関わってきます。現代人に多いストレスや不安は、自律神経の働きを乱すことで胃腸の動きを低下させ、ガスが排出されにくくなる原因となります。また、精神的な緊張が強い人は、無意識に口を開けていたり、空気を飲み込む癖(空気嚥下)を持っていたりすることもあり、それがげっぷを繰り返す大きな原因となる場合もあります。
さらに、食後にすぐ横になる習慣や、過度な満腹状態を日常的に続けていると、胃酸や空気が食道方向へ逆流しやすくなります。この逆流によってもげっぷが生じることがあり、いわゆる「逆流性食道炎」へと進行するケースもあるため、安易に放置することはできません。
このように、頻繁なげっぷの背景には、食事の仕方や選ぶ食品、飲み物、精神的な状態、生活習慣、さらには消化器官の機能異常など、さまざまな要因が絡み合っています。だからこそ、げっぷが増えたと感じたときには、単なる一過性のものとせず、自分の生活スタイルを振り返ることが大切です。特にその頻度が高く、日常生活に支障をきたすようであれば、医師の診断を受けることも選択肢として検討するべきです。
慢性的なげっぷが示す可能性のある疾患
慢性的なげっぷが続く場合、単なる空気の飲み込みすぎや食べ過ぎなどの生活習慣に留まらず、消化器の何らかの異常を疑う必要があります。とりわけ注意が必要なのは、げっぷという一見軽い症状の背後に、重大な病気が潜んでいる可能性がある点です。胃や食道は、空気や食物の通り道であるため、異常があれば敏感に症状として現れます。その中でも最も代表的な疾患には、胃食道逆流症、機能性ディスペプシア、食道裂孔ヘルニア、そして胃や十二指腸の潰瘍などがあります。
①胃食道逆流症(GERD)
胃食道逆流症は、胃の内容物、特に胃酸が食道に逆流することで発症する慢性的な疾患です。この逆流は、食道の下部にある括約筋が正常に機能しないときに起こります。本来、この筋肉は食べ物が胃に入ったあとに閉じ、胃酸が食道へ戻らないようにする役割がありますが、加齢や肥満、妊娠、過度な飲酒、喫煙などの要因によって筋力が低下し、逆流が頻発するようになります。
GERDの代表的な症状は、胸やけ、酸っぱい水がこみ上げる感じ、咳、喉の違和感、そして頻繁なげっぷです。特に、空腹時や食後すぐに起こるげっぷには、胃酸の逆流が関与しているケースが多く見られます。また、横になったり、前屈みになったりすると症状が悪化することが多いです。
診断は、内視鏡検査やpHモニタリング検査によって行われます。治療としては、プロトンポンプ阻害薬(PPI)などの胃酸を抑える薬の服用や、食生活の改善、姿勢の工夫が重要です。
②機能性ディスペプシア
機能性ディスペプシアとは、胃の内部に明確な異常が見られないにもかかわらず、持続的な胃の不快感や痛み、げっぷ、膨満感などの症状を訴える状態を指します。近年、ストレス社会といわれる現代において、この疾患は非常に多くの人が抱えている問題のひとつとされています。
この病気の原因ははっきりしていない部分もありますが、胃の運動機能低下、知覚過敏、さらにはストレスや不安による自律神経の乱れが関与していると考えられています。特に、日中に強いストレスを感じる人や、不眠傾向のある人は、胃の働きに影響を及ぼしやすく、それが症状となって現れることが多いのです。
治療には、消化機能を改善する薬や胃の感受性を調整する薬が用いられるほか、漢方薬や心理療法なども選択肢として挙げられます。また、日常生活でのストレス対策や食習慣の見直しも極めて重要であり、病院での薬物療法と並行して取り組むことが推奨されます。
③食道裂孔ヘルニア
食道裂孔ヘルニアは、胃の一部が横隔膜の裂け目(食道裂孔)を通り抜けて胸部側に飛び出してしまう状態です。この状態になると、胃の内容物が食道に逆流しやすくなり、GERDと似たような症状、つまり頻繁なげっぷや胸やけ、吐き気、時には呼吸困難といった症状を引き起こします。
この病気は高齢者に多く見られ、加齢によって横隔膜の筋力が衰えることで起こるとされています。また、慢性的な咳や便秘などで腹圧が上がることも原因のひとつです。初期には無症状であることもありますが、症状が進行すると日常生活に支障をきたすほどの苦しさを感じることもあります。
診断には、バリウム検査や内視鏡が用いられます。治療は軽度であれば薬物療法が中心ですが、重症化している場合には外科的手術が検討されることもあります。
④胃潰瘍・十二指腸潰瘍
胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、胃や腸の粘膜が消化液によって傷つき、深くえぐられたような状態になる病気です。強い胃酸にさらされることや、ピロリ菌感染、鎮痛剤の長期使用、ストレスなどが主な原因とされています。
潰瘍があると胃内の環境が不安定になり、ガスが発生しやすくなることで、げっぷが頻繁に現れるようになります。特に、食後や空腹時に強いげっぷが繰り返される場合には、潰瘍が進行している可能性があります。
また、潰瘍は放置すると出血や穿孔を引き起こすこともあり、命に関わる事態に発展することもあるため、胃の違和感とともにげっぷが頻発する場合には、早期に専門医の診察を受けることが重要です。治療にはピロリ菌の除菌療法や、胃酸を抑える薬の服用が行われます。
げっぷと胆石症・膵炎との関係
胆石症は、胆嚢の中に石(胆石)が形成される病気です。胆嚢は脂肪を分解するために必要な胆汁を一時的に蓄えておく臓器であり、食後にその胆汁を十二指腸に送り込むことで消化を助けています。しかし、胆石が胆管に詰まると、胆汁の流れが妨げられ、消化がスムーズに進まなくなります。その結果として、腹部膨満感や胃もたれ、そしてげっぷといった症状が現れることがあります。
一方、膵炎は膵臓が炎症を起こす病気で、急性と慢性に分かれます。膵臓は消化酵素を分泌する役割があり、この働きが障害されると、脂肪やたんぱく質の消化がうまくいかず、胃の中にガスがたまりやすくなります。このガスがげっぷとして排出されるため、膵炎の初期症状としてげっぷが現れることもあるのです。
これらの疾患は、胃や食道の病気と比べると認識されにくいですが、上腹部に不快感を感じたり、食後にすぐ満腹感を覚えたりする場合は、これらの臓器も疑う必要があります。腹部エコー検査や血液検査などで早期に異常を発見することが大切です。
胃がんの初期症状のげっぷ
胃がんは、日本でも比較的発症率の高いがんの一つですが、初期にはほとんど症状が現れないことが多いため、発見が遅れるケースが少なくありません。その中で、比較的早い段階から見られることのある症状の一つが「げっぷ」です。
胃がんが発生すると、胃の壁にできた腫瘍が食物や空気の通り道を狭くし、ガスの滞留を引き起こすことがあります。そのため、食後に空気がうまく抜けず、げっぷとして頻繁に出るようになります。特に「食事量が減った」「食後すぐにげっぷが出て満腹になる」「急激な体重減少がある」といった症状を伴う場合は、単なる消化不良ではなく、胃がんの可能性を視野に入れて検査を受ける必要があります。
また、胃がんは進行するまで症状が現れにくいため、40歳以上の方でげっぷをはじめとする胃の不調が長期間続いている場合は、たとえ大きな痛みを感じていなくても、一度内視鏡検査を受けることが強く推奨されます。がんの早期発見と早期治療こそが、治癒率を高める最も有効な手段だからです。
食生活とげっぷの関係
食生活は、げっぷの発生頻度に大きな影響を与える非常に重要な要素です。多くの場合、食べるものやそのタイミング、食べ方のクセがげっぷを引き起こしているのです。特に、現代の食文化では加工食品や炭酸飲料が豊富に流通しており、日常的に胃腸へ過剰な負担をかけてしまっていることが少なくありません。
たとえば、炭酸飲料は飲んだ瞬間から胃にガスが溜まります。これが過剰になると、胃の内圧が高まり、自然とげっぷとしてガスを逃がそうとします。また、脂っこい食事や高カロリーなジャンクフードは、胃の消化速度を遅らせ、ガスが溜まりやすくなる原因となります。
食事のタイミングも見逃せないポイントです。深夜に食事を摂る習慣や、食後すぐに横になるクセがあると、胃の内容物が食道に逆流しやすくなり、それに伴ってげっぷが頻発するようになります。これは、胃と食道の境目にある筋肉が緩んでしまい、ガスの逆流を防げなくなるためです。
さらに、食べ方そのものも見直す必要があります。早食いや口を開けて食事をする癖がある人は、空気を多く飲み込みやすく、結果的に胃の中にガスがたまりやすくなります。よく噛まずに飲み込むと、消化のプロセスにも負担がかかり、膨満感や不快感が生じやすくなるのです。
このように、日々の食生活の質やスタイルを見直すことは、慢性的なげっぷの改善に直結する大切なアプローチです。自分の食習慣を冷静に振り返り、必要に応じて医師や栄養士のアドバイスを受けながら調整していくことが求められます。
ストレスと自律神経の影響
ストレスは、私たちの身体にさまざまな影響を及ぼすことで知られていますが、消化器系の働きに対しても大きな影響力を持っています。特に、げっぷとストレスの関係性は深く、多くの人が自覚なくその影響を受けています。これは「心と胃腸のつながり」、いわゆる脳腸相関が大きく関係しているのです。
人がストレスを感じると、自律神経のバランスが崩れやすくなります。自律神経には、交感神経と副交感神経の二つがあり、これらは体内のさまざまな働きを調整する重要な役割を担っています。通常、リラックス時には副交感神経が優位になり、胃腸の動きが活発になります。一方、緊張やストレスの多い状況では交感神経が優位になり、胃腸の働きが抑制されてしまうのです。
この結果として、胃の中のガスがうまく排出されずに溜まり、げっぷとして頻繁に出るようになります。また、ストレスが原因で無意識のうちに口を動かしたり、唾液を飲み込んだりする回数が増える人もいます。こうした動作によって空気を一緒に飲み込んでしまう「空気嚥下症」が起こり、それがげっぷの原因になるのです。
さらに、「心因性げっぷ」と呼ばれる状態もあります。これは、明確な胃腸の異常がないにも関わらず、ストレスや心理的な緊張によって繰り返しげっぷが出る症状です。学校や職場といった緊張を強いられる環境でのみ症状が現れる人もおり、環境要因との関連が強く指摘されています。
このような場合、単なる消化器系の治療だけでは改善しないことが多いため、ストレスマネジメントや心理療法の併用が効果的とされています。カウンセリングやマインドフルネス瞑想、ヨガ、十分な睡眠といった方法でストレスの軽減を図ることが、げっぷの根本的な解決につながる可能性があります。
心と体は密接に関わっているということを忘れずに、自分の心の状態に目を向けることも、げっぷ対策の一環として非常に大切です。
いつ病院に行くべき?
慢性的なげっぷが続いている場合、どのタイミングで病院を受診すべきか悩む方も多いでしょう。げっぷそのものは日常的な現象であるため、すぐに医療機関にかかるべき症状だとは思われにくい傾向があります。しかし、他の症状と合わせて考えると、重大な病気のサインである可能性が否定できません。
たとえば、げっぷに加えて「胸やけ」「胃痛」「食後の不快感」「体重減少」「吐き気」「血が混じった嘔吐や便」といった症状が出ている場合は、早急に医師の診察を受けるべきです。特に、食後に必ずげっぷが出る、夜間の睡眠中にもげっぷで目が覚める、あるいは1ヶ月以上げっぷの頻度が減らないというケースでは、何らかの消化器疾患の疑いが高まります。
また、ストレスや精神的な不調が明らかに関係していると感じる場合でも、まずは内科や消化器科を受診することが基本です。身体的な異常が見つからなかった場合には、心療内科や精神科での診療へとつなげることも考慮されます。
受診の際には、症状がいつから始まったのか、どのようなタイミングでげっぷが出るのか、どんな食べ物や飲み物と関係しているのかといった情報を具体的に伝えると、より正確な診断につながります。市販薬を使用して一時的に症状が改善しているように思えても、根本的な原因が解決されていなければ、将来的に悪化するリスクが残るため、早期受診が何よりも重要です。
検査方法と診断の流れ
慢性的なげっぷが続く場合、病院ではその原因を特定するためにさまざまな検査が行われます。げっぷは非常に多様な原因により発生するため、診断にあたっては「身体的な異常があるのか」「機能性の問題なのか」「心因的な影響が強いのか」といった多角的な視点から検査を進める必要があります。
最初に行われるのは、問診と触診です。医師は、症状が出るタイミングや頻度、生活習慣、食事内容、ストレスの有無などを詳しく確認し、必要に応じて腹部を触診します。これにより、ある程度の方向性を定めたうえで、必要な検査へと進むのです。
次に多くの医療機関で行われるのが、内視鏡検査(胃カメラ)です。この検査では、喉から胃の中までスコープを挿入し、食道や胃、十二指腸の粘膜を直接観察します。胃潰瘍や食道炎、腫瘍などの明らかな病変がある場合は、ここで診断がつくことが多いです。
また、バリウム検査(胃透視)も有効です。これは、造影剤であるバリウムを飲み、その動きをX線で撮影することで、食道裂孔ヘルニアや胃の動きの異常、腫瘍の有無などを確認する検査です。動的な観察が可能なため、内視鏡ではわかりにくい異常を発見できることがあります。
さらに、血液検査ではピロリ菌感染の有無、炎症反応、肝機能や膵臓機能のチェックが行われます。ピロリ菌は胃炎や潰瘍の原因になるため、げっぷとの関連性も深いのです。
呼気検査は、特にピロリ菌の有無を調べる際に用いられます。薬剤を服用後に呼気中の成分を測定することで、菌の存在を高精度に判断することができます。
これらの検査を総合的に評価することで、げっぷの根本的な原因を見極め、適切な治療につなげることができます。検査に対して不安を感じる人も多いですが、どれも比較的安全性が高く、短時間で終わるものばかりです。気になる症状が続く場合は、ぜひ早めの検査を検討してみてください。