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「食べるとすぐお腹を下す…」吸収不良症候群の可能性も

便に関するお悩み
「食べるとすぐお腹を下す…」吸収不良症候群の可能性も
友利 賢太

院長 友利 賢太

資格

  • 医学博士(東京慈恵会医科大学)
  • 日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
  • 日本大腸肛門病学会 大腸肛門病専門医
  • 日本消化器病学会 消化器病専門医
  • 日本消化器外科学会 消化器外科専門医・指導医
  • 日本消化器外科学会 消化器がん外科治療認定医
  • 日本消化器内視鏡学会
    上部消化管内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本消化器内視鏡学会
    大腸内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本外科学会 日本外科学会専門医
  • 日本消化管学会 消化管学会専門医
  • 日本ヘリコバクター学会 H. pylori 感染症認定医
  • 4段階注射療法受講医
  • 東京都難

食後すぐに下痢をするのは正常?異常?

①食後反射と消化管の動き

人が食事をすると、消化器系はすぐに反応します。これは「胃結腸反射」と呼ばれ、胃に食物が入ると大腸が刺激され、排便を促進する現象です。特に朝食後や水分を多く含む食事では、この反射が強く現れることがあります。健康な人でも、この反射によって軽い腹痛や排便の衝動が起こるのは珍しくありません。これは身体が正常に機能している証でもあります。

しかし、この反射が過剰に起こると、便が緩くなったり、頻繁にトイレに駆け込むようになったりします。通常、1日に1〜2回程度の排便であれば正常範囲ですが、食後すぐに毎回下痢を伴うような状態は、何かしらの異常が潜んでいる可能性が高まります。

②一時的な腹部不調と慢性的な症状の違い

食べ過ぎや冷たい飲み物の摂取、ストレスの影響で、一時的に下痢が起きることもあります。このような場合、数時間から数日で自然に回復します。しかし、それが数週間〜数ヶ月と続き、常に「食べるたびにお腹を壊す」ような状態が続くなら、慢性的な腸の異常、特に吸収不良や腸内環境の乱れを疑うべきです。

特に「食べた直後に下痢が出る」「水様便が多い」「ガスや膨満感も強い」といった症状が続く場合には、体内で食物が適切に処理・吸収されていないサインです。医療機関での検査を受けることが、正確な原因特定と適切な対処への第一歩となります。


よくある原因と背景疾患

①過敏性腸症候群(IBS)との関係

過敏性腸症候群(IBS)は、現代人に増えている腸の機能的な疾患で、腸に明確な器質的異常はないものの、便通異常や腹痛を繰り返すのが特徴です。IBSには下痢型・便秘型・混合型の3タイプがあり、特に下痢型では「食べたらすぐお腹を壊す」という症状がよく見られます。

IBSの原因は明確ではありませんが、ストレスや自律神経の乱れ、食生活の偏りが大きな要因とされています。また、腸内細菌バランスの乱れや、腸の知覚過敏も影響しています。これにより、腸が少しの刺激でも過剰に反応し、すぐに下痢や腹痛を引き起こすのです。

②消化酵素の不足と膵機能不全

私たちの体が食べたものを消化・吸収するには、さまざまな酵素が必要です。これらは主に膵臓から分泌され、脂肪・タンパク質・糖質をそれぞれ分解する役割を果たします。しかし、膵機能が低下すると、この消化酵素が十分に分泌されなくなり、食べ物を十分に分解できなくなります。

結果として、消化不良により未消化の食物が腸に流れ込み、腸内細菌によって異常発酵が起き、ガスや膨満感、下痢といった症状が出やすくなります。これは「膵外分泌不全」とも呼ばれ、重症化すると脂肪便や急激な体重減少を招くため、専門的な診断と酵素補充治療が必要になります。

③胃腸炎や感染症によるもの

ウイルスや細菌が原因となる胃腸炎も、食後の下痢の一因です。ノロウイルスやロタウイルス、カンピロバクター、大腸菌などに感染すると、急性の下痢、嘔吐、腹痛などの症状が現れます。これらは一過性のもので、多くは自然治癒しますが、免疫力が低下している人では長引くことがあります。

特に旅行中の「旅行者下痢症」などは水や食事が原因で発症することがあり、食後にすぐ症状が出ることも珍しくありません。繰り返す場合は慢性化や別の疾患への移行も考慮し、医師の診察を受けることをおすすめします。


吸収不良症候群(マルアブソープション症候群)とは?

①定義と基本的な特徴

吸収不良症候群とは、腸からの栄養素の吸収がうまくいかない状態の総称です。通常、小腸で水分、ビタミン、ミネラル、脂肪、糖質、タンパク質などの栄養素が吸収されますが、これが障害されると、栄養不足により様々な体調不良が起こります。

この症候群は1つの疾患ではなく、原因や症状も多岐にわたります。患者によっては、特定の栄養素だけが吸収できない場合もあり、慢性的な下痢、腹部膨満、体重減少、疲労感、貧血などの症状を呈します。放置すれば栄養不良が進行し、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。

②胃腸での栄養素吸収のメカニズム

消化吸収の流れは非常に複雑で、まず口や胃で食物が物理的に細かくされ、胃酸や消化酵素によって化学的に分解されます。その後、小腸に送られ、さらに胆汁や膵液の働きで細分化された栄養素が、腸の絨毛から吸収されていきます。

このプロセスのいずれかに問題があると、栄養素がうまく吸収されなくなります。たとえば、小腸の粘膜に炎症や損傷があると、表面積が減少し、効率よく吸収できなくなります。これが長期間続くと、慢性的な栄養失調や合併症を引き起こすリスクがあります。


吸収不良症候群の主な原因

①セリアック病(グルテン過敏)

セリアック病は、グルテンと呼ばれる小麦由来のタンパク質に対する免疫異常が原因の自己免疫疾患です。グルテンを摂取すると、腸の絨毛が傷つき、栄養の吸収が著しく妨げられます。主な症状には、慢性的な下痢、腹痛、ガス、膨満感、体重減少、貧血などがあります。

近年では、軽度のセリアック病や「グルテン過敏症」と呼ばれる非自己免疫型の症状を持つ人も増えており、自覚がないまま症状が悪化するケースも報告されています。血液検査と腸の生検で診断され、治療の基本はグルテンを完全に除去する食事療法です。

②クローン病や潰瘍性大腸炎

炎症性腸疾患であるクローン病や潰瘍性大腸炎は、腸の粘膜に慢性的な炎症を引き起こし、腸の構造を破壊してしまいます。特にクローン病では小腸に炎症が及びやすく、栄養吸収機能が低下することがよくあります。

これらの疾患では、下痢や血便、発熱、腹痛などの症状が繰り返され、治療には免疫抑制剤や生物学的製剤が使われます。早期診断と長期的な管理が求められる疾患であり、吸収不良症候群の一因としても見逃せません。

③膵臓の障害・胆汁分泌不良

膵臓は消化酵素の供給源であり、脂肪やタンパク質を分解する重要な役割を担っています。慢性膵炎や膵がん、膵管閉塞などにより膵液が出にくくなると、脂肪の消化が著しく低下します。

また、胆嚢や肝臓の機能が低下し、胆汁の分泌が不足する場合も同様に、脂肪の吸収障害が発生します。これらが進行すると「脂肪便」が出るようになり、便は浮いて悪臭を放ち、トイレで流れにくくなることも特徴的です。


代表的な症状と兆候

①食後の下痢とガス・膨満感

吸収不良症候群に共通する初期症状のひとつが、食後の下痢です。特に脂肪や乳製品を摂った直後に症状が出やすい傾向があります。食物がうまく分解・吸収されないまま腸に到達すると、腸内細菌が過剰に発酵し、ガスが発生し、腸の動きが急激に活発になります。

この結果、腹部の膨満感や痛み、鼓腸、そして水様性の下痢が起こるのです。こうした症状は食後すぐ、もしくは30分以内に現れることが多く、トイレが近くにないと不安になる人も少なくありません。これが慢性化すると、外出や仕事、日常生活に大きな支障をきたします。

②栄養不良による体重減少と貧血

腸からの栄養吸収が十分でない状態が続くと、体内の栄養素が不足し、全身に影響が及びます。特に、鉄分、ビタミンB12、葉酸などの吸収が障害されると、貧血や倦怠感、めまいといった症状が見られます。また、タンパク質やカロリーの吸収が不足すると、筋肉量の減少や体重の急激な減少が引き起こされます。

多くの患者が「しっかり食べているのに体重が減っていく」と訴えますが、それは摂取した栄養がきちんと吸収されていないためです。とくに高齢者や子どもでは、免疫力や成長に影響することがあり、早期の対応が不可欠です。

③脂肪便とその特徴

脂肪便とは、脂肪の吸収障害によって便に多量の脂質が含まれる状態です。外見上の特徴として、便が浮く、色が白っぽくなる、べたつきがあり流しにくい、悪臭が強いといった点が挙げられます。これは膵臓機能の低下や胆汁不足、もしくは小腸の障害によって脂肪が適切に分解されず、未消化のまま排出されるために起こります。

脂肪便が頻繁に見られる場合、体内に必要な脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、K)が吸収されず、視力障害や骨粗鬆症、出血傾向などのリスクが高まります。このような症状が現れた場合には、医療機関での検査と治療が強く推奨されます。


どのように診断されるのか?

①血液検査・便検査の役割

吸収不良症候群の診断において、最初に行われるのが血液検査と便検査です。血液検査では、栄養素の欠乏(鉄分、ビタミン、タンパク質など)、炎症反応、貧血の有無などが確認されます。便検査では、脂肪便の有無や消化不良の兆候をチェックし、感染症や寄生虫の可能性も調べられます。

これらの検査により、吸収障害の有無をスクリーニングし、どの部位で問題が起きているのかの手がかりを得ることができます。

②内視鏡・バイオプシー(生検)の活用

腸の粘膜の状態を詳しく調べるためには、内視鏡検査が有効です。特に上部消化管内視鏡(胃カメラ)や下部内視鏡(大腸カメラ)を用いて、直接腸の内側を観察します。必要に応じて組織を採取(バイオプシー)し、病理学的に検査を行います。

セリアック病やクローン病などは、粘膜に特徴的な所見があるため、バイオプシーが確定診断に大きく役立ちます。最近ではカプセル内視鏡といった負担の少ない方法も活用され始めています。

③消化吸収試験の具体的な流れ

栄養素の吸収能力を評価するためには、「消化吸収試験」と呼ばれる特殊な検査が行われます。たとえば、D-キシロース吸収試験、脂肪吸収試験、ラクトース耐性試験などがあり、それぞれの栄養素が体内にどの程度吸収されるかを数値で評価します。

これらの結果を総合的に判断し、原因疾患の特定や治療方針の決定に役立てます。吸収不良の原因は複雑に絡み合っていることが多いため、複数の検査を段階的に行うのが一般的です。


治療法と日常生活の注意点

①原因疾患の治療と管理

吸収不良症候群の治療は、その根本原因に応じて異なります。セリアック病であれば、グルテンを完全に除去する食事療法が基本になります。クローン病や潰瘍性大腸炎の場合は、炎症を抑えるための免疫抑制剤や生物学的製剤の投与が行われます。

膵機能不全が原因であれば、消化酵素の補充や脂肪制限食の導入が推奨されます。胆汁分泌の問題がある場合には、胆汁酸製剤の使用も検討されます。これらの治療に加えて、定期的なフォローアップによる栄養状態のモニタリングが重要です。

②食事療法とサプリメント

食事は、吸収不良症候群の管理において最も基本かつ重要な柱の一つです。低脂肪・高たんぱく・消化の良い食材を中心にしながら、ビタミンやミネラルを補える食事を心がけましょう。また、乳糖不耐症の人には乳製品の制限が有効な場合もあります。

さらに、医師の指導のもとでビタミンDやビタミンB12、鉄分、亜鉛、カルシウムなどのサプリメントを取り入れることが推奨されるケースもあります。特に脂溶性ビタミンは吸収不良によって欠乏しやすいため、医師と相談しながら適切に補うことが大切です。

③ストレス管理の重要性

消化管は「第二の脳」とも呼ばれるほど、自律神経と密接に関わっています。ストレスや不安、睡眠不足があると、腸の動きや消化吸収能力が低下してしまうのです。とくにIBSの患者では、ストレスが直接的な誘因になることが多いため、リラクゼーションやマインドフルネス、カウンセリングなどを取り入れた生活改善が求められます。

日記をつけて、どんな時に症状が悪化するかを記録するのも非常に有効です。心と体の両面からアプローチすることで、治療の効果を高めることができます。


医師に相談するべきタイミング

①症状の持続期間と重症度

「たまにお腹を壊す」というレベルなら、軽い食当たりや一時的な体調不良の可能性があります。しかし、「食べるたびに下痢になる」「体重が減る」「倦怠感が取れない」といった症状が2週間以上続くようであれば、早急に医師へ相談する必要があります。

特に、脂肪便や便の色の異常、悪臭、便に血が混じるなどの症状がある場合は、消化器系の深刻な異常が疑われます。自己判断に頼らず、内科や消化器内科での診察を受けましょう。

②自己判断によるリスク

「体質だから仕方ない」「いつものこと」と考えてしまうと、病気の早期発見の機会を逃してしまいます。吸収不良が進行すると、骨粗しょう症、貧血、免疫力低下など多くの合併症を引き起こすリスクがあります。

市販薬に頼り続けることも危険です。下痢止めや整腸剤で一時的に症状が抑えられても、根本原因が改善されない限り、症状は再発・悪化する可能性があります。専門医による正確な診断と、継続的な治療方針の策定が極めて重要です。


食生活で注意すべきポイント

①低脂肪・高繊維の食事法

吸収不良症候群の管理には、消化に負担をかけない食事が基本です。脂肪分が多い食事は消化に時間がかかるうえに、膵機能が低下している人には非常に負担になります。そのため、低脂肪の肉や魚、蒸した野菜、雑炊などがおすすめです。

一方、食物繊維は腸内環境を整えるのに有効ですが、摂り過ぎるとガスが溜まりやすくなります。特にIBSの患者は不溶性繊維よりも、水溶性食物繊維(オートミール、りんご、バナナなど)を中心に摂取するとよいでしょう。

②食物アレルゲンの除去

特定の食品が原因で吸収不良や下痢が起きる場合があります。グルテン、乳糖、大豆、ナッツ、魚介類などは代表的な食物アレルゲンです。自己判断で除去するのではなく、必要に応じてアレルギー検査や食事日誌をつけながら、医師と相談して対応しましょう。

③発酵食品の活用

腸内環境を整えるためには、善玉菌を増やす発酵食品の摂取も効果的です。ヨーグルト、納豆、キムチ、味噌などは、乳酸菌やビフィズス菌が含まれており、腸の免疫力や消化吸収力を向上させてくれます。ただし、乳糖不耐症の人はヨーグルトに注意が必要です。


子どもの場合はどう対処する?

①成長遅延との関係

子どもに吸収不良がある場合、最も顕著に現れるのが成長の遅れです。食事はしっかり摂っているのに体重が増えない、身長が伸びないといった場合、栄養が適切に吸収されていない可能性があります。特にビタミンや鉄分、亜鉛の不足があると、集中力の低下や免疫力の低下も見られやすくなります。

また、セリアック病や乳糖不耐症、アレルギー性腸炎などは、小児期から症状が出やすいため、注意が必要です。下痢が続く、便の様子がおかしい、食欲がないなどの兆候があれば、小児科や消化器専門医への相談をおすすめいたします。

②小児科の視点から見た管理法

子どもの場合、身体だけでなく心理的なストレスも腸の症状に大きく影響を与えます。学校や家庭でのストレス、環境の変化などが腸の働きに悪影響を及ぼすこともあります。IBSのような機能性疾患では、心理的なケアも重要なポイントです。

また、成長期に必要な栄養を十分に補給するためには、医師や管理栄養士の指導のもと、栄養バランスのとれた食事とサプリメントの活用が不可欠です。定期的な身体測定と血液検査により、栄養状態をしっかりと把握することが必要です。

③高齢者の消化吸収トラブル

加齢による消化機能低下
高齢者では、加齢に伴って消化酵素の分泌量が減少し、胃酸も少なくなりがちです。これにより、消化効率が低下し、食物が長く胃に滞留することで腹部膨満や胃もたれ、便通異常が起こりやすくなります。さらに、嚥下機能の低下や咀嚼力の低下も重なり、栄養摂取量自体が減ってしまう傾向もあります。

特に脂肪や繊維質の多い食事は、胃腸にとって負担が大きくなります。高齢者に多いのは慢性的な便秘ですが、吸収不良型の下痢も見逃してはいけません。微量栄養素の不足によって、筋力低下や骨粗しょう症、免疫力低下を招くリスクもあります。

④栄養管理と食事サポート

高齢者においては、食事からしっかりと栄養を吸収させるための「補助」が大切になります。消化の良い料理を少量ずつ回数を分けて提供する「分食」や、エネルギー密度の高い食品の活用が効果的です。また、噛みやすく飲み込みやすい調理法への工夫や、必要に応じて補助食品(栄養ドリンクや流動食)の使用も検討されます。

栄養士のサポートや介護職との連携も大切で、食事の内容と摂取状況をきめ細かく観察することで、未然に栄養障害を防ぐことができます。