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長引く下痢は要注意!感染症や慢性疾患のサインかも

便に関するお悩み
長引く下痢は要注意!感染症や慢性疾患のサインかも
友利 賢太

院長 友利 賢太

資格

  • 医学博士(東京慈恵会医科大学)
  • 日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
  • 日本大腸肛門病学会 大腸肛門病専門医
  • 日本消化器病学会 消化器病専門医
  • 日本消化器外科学会 消化器外科専門医・指導医
  • 日本消化器外科学会 消化器がん外科治療認定医
  • 日本消化器内視鏡学会
    上部消化管内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本消化器内視鏡学会
    大腸内視鏡スクリーニング認定医
  • 日本外科学会 日本外科学会専門医
  • 日本消化管学会 消化管学会専門医
  • 日本ヘリコバクター学会 H. pylori 感染症認定医
  • 4段階注射療法受講医
  • 東京都難

そもそも「下痢」とは何か?

私たちが日常的に経験する「下痢」という現象は、ただ単に水っぽい便が出ることを意味するだけではありません。医学的には、腸の内容物が適切に水分を吸収されず、液状または半液状のまま排出される状態を指します。便の回数が多いことも重要な指標ですが、それ以上に注目されるのは便の性状、つまり水分量の多さです。

正常な便は約70〜80%が水分ですが、下痢便はこれを超え、90%以上が水分で構成されていることもあります。結果として、体内の水分や電解質が急速に失われやすくなり、体調を大きく崩す要因にもなります。特に高齢者や乳幼児においては、脱水症状を引き起こす危険性が高く、注意が必要です。

下痢には、大きく分けて「急性下痢」と「慢性下痢」の2種類があります。急性下痢は、食あたりや一過性のウイルス感染、冷たい飲食物の摂取などが原因で起こり、通常は数日以内に自然と回復します。一方で、慢性下痢は2週間以上にわたって続く場合を指し、感染症だけでなく、炎症性腸疾患や内分泌疾患、薬剤性の影響など、より深刻な病態が背景にあることが多いとされています。

また、下痢の症状には個人差があり、人によっては腹痛や吐き気、発熱、全身倦怠感を伴うこともあります。逆に、腹痛などの不快感がまったくなく、ただ便が柔らかいだけというケースもあり、症状の重さだけでその危険性を判断するのは難しいのが実情です。下痢を単なる「お腹の調子が悪い」という軽い感覚で放置してしまうと、慢性化した原因疾患が進行してしまうリスクも否定できません。

さらに、腸は体全体の免疫システムとも深く関係しているため、腸のトラブルが全身症状として現れることもあります。特に腸内フローラの乱れによって、善玉菌と悪玉菌のバランスが崩れると、下痢だけでなく、肌荒れや疲労感、精神的な不調にもつながることが最近の研究で明らかになっています。

このように、「下痢」は単なる一時的な体調不良ではなく、体が発している大切なサインの一つです。その原因や期間、便の状態をしっかり観察することが、重大な病気の早期発見につながる可能性もあります。下痢が起こった際は、何を食べたか、いつから症状が始まったか、他にどんな症状があるかを注意深く記録しておくと、医師による診断の際にも非常に役立ちます。


下痢が数日で治まるのは正常?

日常生活の中で下痢を経験することは珍しくありません。たとえば、冷たい飲み物を飲みすぎたとき、油っこい食事をしたあと、あるいは精神的な緊張が強いときなど、さまざまな場面で一時的にお腹がゆるくなることがあります。これらは体の自然な反応であり、多くの場合、特別な治療を必要とせず、数日以内に自然に回復します。

このような「一過性の下痢」は、原因が明確で、かつ下痢以外の重い症状(発熱、嘔吐、血便など)を伴わないことが多いため、体を休ませ、適切な水分補給と食事の工夫をすることで改善していくのが一般的です。例えば、脂っこいものや刺激物を控え、おかゆやスープなど消化にやさしい食事を摂るだけでも、胃腸への負担を軽減し、早期回復につながります。

しかし問題となるのは、こうした軽度の下痢が治まる様子もなく、4日以上続くようなケースです。通常、ウイルス性胃腸炎などによる下痢であっても、2〜3日で自然に改善するのが一般的です。そのため、下痢が5日以上継続する場合は、ただの体調不良とは言い切れず、何らかの異常が体内で進行している可能性が考えられます。

特に注意したいのは、下痢が治まりかけたと思ったらまた再発する、便が水のように極端に緩い、あるいは排便後にも強い腹痛や違和感が続くといった状態です。これらは一過性ではなく、腸の炎症や感染症、あるいは消化器系の疾患が潜んでいる可能性があるため、自己判断で放置するのは非常に危険です。

また、下痢が短期間で治まったように見えても、体が水分を大量に失っている状態が続くと、脱水や電解質の乱れが生じ、めまいや倦怠感、意識障害を引き起こすリスクがあります。特に高齢者や子どもは脱水の進行が早いため、早めの対応が重要です。

結論として、下痢が2〜3日で治まるのであれば特別な心配はいりませんが、5日以上継続する場合や、頻繁に再発する場合は「普通ではない」と考えるべきです。体からの警告サインを見逃さず、必要に応じて医療機関での診察を受けることが大切です。


いつから「長引いている」と判断すべきか?

「長引く下痢」とは、一体いつからそう呼ぶべきなのでしょうか。明確な定義は医療機関や文献によって多少異なりますが、一般的には1週間以上持続する下痢、あるいは再発を繰り返し、2週間以上にわたって症状が完全に改善しない状態を「慢性的な下痢」と分類することが多いです。

私たちは、下痢が数日間続いたとしても、「きっと一時的なものだろう」と軽く見てしまいがちです。しかし、腸の粘膜や腸内環境が炎症を起こしている場合、自然治癒が難しいことも少なくありません。慢性化した下痢は、腸の働きが恒常的に乱れているサインであり、その原因が機能性疾患なのか、器質的疾患(潰瘍や炎症、腫瘍など)なのかによって、治療方法も大きく異なります。

また、長引く下痢には「自覚症状が軽い」ケースもあります。痛みがなければ放っておいてしまう人も多いのですが、実際には体の中では水分や栄養素の吸収不良が進行していることがあり、知らぬ間に体力が低下していたり、貧血や栄養失調を引き起こしている場合もあるのです。

特に注意したいのは、「下痢だけでなく、微熱や体重減少、倦怠感など他の症状が併発している場合」です。これは炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)の可能性もあり、放置することで重症化し、入院や手術が必要になるケースも存在します。

したがって、「下痢が1週間以上続く」「日常生活に支障をきたしている」「便の性状に異変がある(血が混じる、臭いが強いなど)」といった場合は、速やかに専門医を受診し、必要な検査を受けるべきです。早期の診断と治療が、身体へのダメージを最小限に食い止めるための鍵となります。


長引く下痢で考えられる主な原因とは?

下痢が1週間以上続くような場合、その背後には単なる胃腸の不調以上の、より深い原因が隠れている可能性があります。長引く下痢には、感染症、慢性疾患、生活習慣、薬の副作用、心理的要因など、さまざまな背景があります。それぞれの原因を丁寧に見ていくことで、適切な対処法を導き出すことが可能となります。

まず考えられるのが、「ウイルスや細菌、寄生虫などによる感染症」です。特に、ノロウイルスやロタウイルス、カンピロバクター、サルモネラ菌などは、食品や水、接触感染によって体内に入り込み、激しい下痢や腹痛、発熱を引き起こします。通常は数日で回復するものの、体力が落ちていると長引くことがあり、特に高齢者や子どもでは症状が慢性化しやすい傾向があります。

また、「旅行先での下痢」もよく知られるケースの一つです。衛生環境の異なる地域、特に発展途上国では、食べ物や水に含まれる微生物に対する免疫が整っていないため、「旅行者下痢症」として発症し、帰国後も症状が続くことがあります。このような場合、寄生虫感染の可能性もあるため、便検査などを受ける必要があります。

さらに見落とされがちなのが「薬剤による下痢」です。抗生物質は腸内の善玉菌まで一緒に死滅させてしまうことがあり、その結果として腸内環境のバランスが崩れ、長期間にわたる下痢が生じることがあります。その他、鎮痛薬、降圧剤、サプリメントなども、体質によっては消化管に刺激を与え、便が緩くなりやすいのです。

「過敏性腸症候群(IBS)」もまた、長引く下痢の大きな原因の一つです。これは腸自体に器質的な異常がないにもかかわらず、ストレスや不安など心理的な要因によって腸が過敏に反応し、下痢や便秘を繰り返す状態を指します。特に、朝の通勤前や食後に症状が現れることが多く、生活に支障をきたすケースも少なくありません。

そして最も深刻なのが、「炎症性腸疾患(IBD)」です。これは潰瘍性大腸炎やクローン病といった自己免疫性の病気で、腸に慢性的な炎症や潰瘍を引き起こします。これらは一度発症すると完治が難しく、適切なコントロールを継続していく必要があります。血便、激しい腹痛、発熱、体重減少などが伴う場合は、速やかな専門医の診察が求められます。

また、近年注目されているのが「食物アレルギーや食物不耐症」による慢性下痢です。牛乳に含まれる乳糖に対して酵素が不足している「乳糖不耐症」や、小麦に含まれるグルテンによる「非セリアックグルテン過敏症」などがこれに該当します。特定の食品を摂取した後に決まって下痢が起こる場合は、食事日記をつけるなどして原因を探ることが大切です。

このように、長引く下痢の背後には非常に多様な原因が存在します。単に「お腹が弱っているから」と軽視せず、自分の症状や生活背景を冷静に見つめ、必要に応じて医師の診察を受けることが、症状を根本から改善するための第一歩となります。


これらの疾患が引き起こす症状の違い

下痢を引き起こす原因はさまざまですが、それぞれの疾患には特有の「サイン」があります。症状の違いを把握することで、どの病気の可能性が高いのか、ある程度見極める手がかりとなります。特に、慢性化している場合は症状の微妙な違いを見逃さないことが重要です。

たとえば、ウイルスや細菌感染による下痢は、発症が急で、症状が激しい傾向があります。突然の水様性下痢、38℃を超える発熱、悪寒、嘔吐、腹痛が同時に現れることが多く、全身の倦怠感も強く出るのが特徴です。特にノロウイルスやサルモネラ菌は、感染力が強く、周囲に広がりやすいため、家族や同居人も同じような症状を訴えるケースがあります。

一方で、旅行者下痢症のような寄生虫による感染では、症状がゆっくり始まることが多く、下痢は軽度から中等度で長く続く傾向があります。しぶとく続く水様便や、微熱、腹部の違和感、ガスの増加などがみられます。旅行後しばらくしてから症状が出る場合もあるため、受診時には必ず「渡航歴」を伝えることが重要です。

次に、薬剤性の下痢は、服用を始めてから数日以内に起こることが多く、特定の薬剤やサプリメントと因果関係がある場合が多いです。特に抗生物質を使用した後に便が緩くなる場合は、腸内の常在菌バランスが崩れた「抗生物質関連下痢症」が疑われます。軽度であれば一時的なものですが、場合によっては腸内に悪性の菌(例:クロストリジウム・ディフィシル)が異常増殖していることもあるため、軽視はできません。

さらに、過敏性腸症候群(IBS)では、下痢以外に腹部の張り、ガスの多さ、便意をもよおすと同時に急な腹痛が起こるなど、「不快な腸の感覚」が強く出るのが特徴です。便意があるとトイレに急いで駆け込まなければならないような衝動感が強く、ストレスが引き金となることも多いため、緊張する場面や朝の通勤時間などに悪化しやすい傾向があります。

一方、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)では、下痢に加えて血便や膿の混じった便、持続する腹痛、微熱、体重の減少といった「全身症状」が目立ちます。長期間にわたって症状が続くことが多く、栄養障害や貧血を併発するケースも少なくありません。また、症状の波があり、良くなったり悪くなったりを繰り返すため、治ったと思っても油断は禁物です。

そして、食物アレルギーや不耐症による下痢では、特定の食品を摂取した後に一貫して症状が現れるのが特徴です。たとえば、牛乳を飲んだ後にいつもお腹を下す場合は「乳糖不耐症」が疑われます。グルテン(小麦)に反応する「グルテン過敏症」も、下痢、膨満感、疲労感といった症状が典型的で、摂取を避けることで劇的に改善することがあります。

このように、下痢という一つの症状でも、その原因や性質は実に多様です。だからこそ、「どのタイミングで起こるのか」「どんな便なのか」「他にどんな症状を伴っているのか」という点を丁寧に記録し、医師に伝えることが、正確な診断と早期回復への第一歩になります。


放置するとどうなる?リスクと合併症

長引く下痢を「ただの体調不良」と見過ごしてしまうと、思わぬリスクや合併症につながることがあります。特に問題となるのは、体内の水分や電解質が急速に失われていくことです。これは脱水症状を引き起こし、口の渇きやめまい、脱力感といった初期症状を経て、重度になると意識障害やショックといった命に関わる状態に進行する恐れもあるのです。

また、長く続く下痢は栄養吸収にも深刻な影響を与えます。腸が十分に栄養を吸収できない状態が続くと、体重が急激に落ちたり、ビタミンやミネラルが不足して肌荒れや免疫力の低下を招いたりします。特に脂肪や鉄分、ビタミンB群などの吸収不良は貧血や神経障害を引き起こす要因にもなりかねません。

腸内の善玉菌と悪玉菌のバランス、いわゆる腸内フローラもまた大きく影響を受けます。下痢が続くと善玉菌が減少し、悪玉菌が優勢な状態に傾きます。これは単に下痢を悪化させるだけでなく、便秘やガス、肌荒れ、アレルギー体質の悪化にもつながることがわかっています。

さらには、腸の粘膜が弱ってバリア機能が低下すると、細菌や毒素が体内に侵入しやすくなり、腸管感染症や全身性の感染症(敗血症など)を引き起こすリスクも高まります。これが重症化すれば、入院や点滴治療が必要になることもあります。

そして、長引く下痢によって最も影響を受けるのは、私たちの日常生活です。急な便意やトイレの不安から外出が億劫になり、仕事や学校に支障をきたしたり、旅行を控えたりするなど、生活の質(QOL)が著しく低下します。さらに、このような生活上の制限が精神的ストレスとなり、それがまた下痢を悪化させるという悪循環に陥ることも少なくありません。

このように、長引く下痢を軽く見て放置してしまうと、身体的・精神的・社会的なダメージが複合的に現れやすくなるため、早期の対応がとても大切です。


長引く下痢への対処法と予防策

長引く下痢に対しては、まず原因を明確にすることが最も重要です。そのためには医療機関を受診し、専門医による診察と検査を受けることが第一歩となります。血液検査や便培養検査、大腸内視鏡検査などを通じて、感染症、炎症性疾患、腫瘍、機能性疾患などを正しく見極め、根本的な原因を把握することが症状の改善につながります。

症状が続く間は、脱水を予防するために水分と電解質の補給が欠かせません。特に多くの水分を失っている体には、ただの水ではなく、経口補水液やスポーツドリンクのように電解質を含んだ飲料が効果的です。一方で、カフェインやアルコールは利尿作用があり、かえって脱水を進めてしまうため避けるのが望ましいでしょう。

食事に関しては、胃腸にやさしいものを選ぶことが大切です。揚げ物や香辛料の強い食事は避け、消化の良い炭水化物(おかゆ、うどんなど)や柔らかく煮た野菜、脂肪の少ないたんぱく質(白身魚、豆腐など)を少量ずつ食べるように心がけましょう。下痢が続いている間は、1回の食事量を減らし、回数を分けて摂ることで腸の負担を減らすことができます。

心理的要因が関係しているケースでは、ストレスの管理も非常に重要です。日常的に強い緊張や不安を感じていると、腸が過敏に反応して下痢を引き起こしやすくなります。そのため、瞑想、呼吸法、軽い運動、規則正しい睡眠習慣など、リラックスできる習慣を取り入れることが効果的です。

また、感染症予防のためには衛生面の配慮も不可欠です。特に、食事の前やトイレの後には石けんを使った丁寧な手洗いを徹底し、食材はよく加熱してから食べるようにしましょう。旅行時には、生水や生ものの摂取を避けるなど、地域に応じた注意も必要になります。

これらの対処法は、症状がすでに出ている場合の「治療」に加え、今後の「予防」としても有効です。ただし、下痢が1週間以上続く場合は、自己判断に頼らず、医師の診察を受けることが何よりも大切です。