
院長 友利 賢太
資格
- 医学博士(東京慈恵会医科大学)
- 日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
- 日本大腸肛門病学会 大腸肛門病専門医
- 日本消化器病学会 消化器病専門医
- 日本消化器外科学会 消化器外科専門医・指導医
- 日本消化器外科学会 消化器がん外科治療認定医
- 日本消化器内視鏡学会
上部消化管内視鏡スクリーニング認定医 - 日本消化器内視鏡学会
大腸内視鏡スクリーニング認定医 - 日本外科学会 日本外科学会専門医
- 日本消化管学会 消化管学会専門医
- 日本ヘリコバクター学会 H. pylori 感染症認定医
- 4段階注射療法受講医
- 東京都難
目次
正常な体重変化と異常の境界線

健康的な体重変動とは
私たちの体重は日々の活動や食生活、ストレス、睡眠の質などによって変動します。例えば、前日より水分摂取量が多ければ1〜2kg増えることもあり、逆に発汗が多い日には減少します。これは生理的な範囲で、特に心配は要りません。ダイエットや運動による減少も、体脂肪や筋肉量の調整に関わっているため、健康的な範囲であれば問題ありません。
ただし、こうした変動は一時的なものであり、安定している体重の基準から大きく外れないのが通常です。変動が数日〜数週間で5kg以上あるような場合は、どこかに異常が隠れている可能性も否定できません。
異常な体重減少を見極めるポイント
「特に食事制限をしていない」「普段通りの生活をしているのに体重がどんどん減っていく」といった場合は、注意が必要です。6か月以内に体重の5%以上が減少した場合、それは医学的に「異常な体重減少」とみなされます。これは単なる代謝の問題ではなく、内臓疾患やがん、感染症、栄養吸収障害などの重大な病気の前兆であることもあります。
また、体重減少に加えて食欲不振、下痢、疲労感、発熱、嘔吐、便の変化などが見られる場合は、早急な医療機関の受診が強く推奨されます。特に中高年以降の体重減少は、がんなどの深刻な疾患の早期サインであることも多く、見逃してはいけません。
慢性的な下痢とはどんな状態?

1週間以上続く便の変化
一般的に「下痢」とは、1日に3回以上の軟便または水様便を指します。通常、食あたりや軽度のウイルス性胃腸炎であれば、2〜3日で自然に回復します。しかし、これが1週間以上続く場合には“慢性下痢”として扱う必要があります。慢性下痢の背後には、消化吸収機能の異常、炎症性疾患、感染症、内分泌疾患など、さまざまな原因が潜んでいることが多いです。
特に、便の中に粘液や血液が混じる、腹痛や膨満感を伴う、食後すぐに排便したくなるなどの症状がある場合には、自己判断で様子を見るのではなく、医療機関での検査が必要です。
急性下痢と慢性下痢の違い
急性下痢は、通常48時間以内に発症し、ウイルスや細菌感染、食中毒などが原因です。比較的短期間で収まり、治療なしでも改善することが多いのが特徴です。一方、慢性下痢は数週間〜1ヶ月以上にわたって持続する下痢で、体重減少、栄養不足、貧血などを併発することが少なくありません。
慢性下痢は、日常生活に大きな影響を与えるだけでなく、栄養素がうまく吸収されずに免疫力が低下したり、疲労感が抜けなかったりする原因になります。下痢に加えて体重減少が見られる場合には、吸収不良症候群や炎症性腸疾患、がんの可能性があるため、早期に専門医の診断を受けることをおすすめします。
消化吸収の異常による疾患

吸収不良症候群
吸収不良症候群とは、小腸における栄養素の吸収機能が低下することによって、体内に必要なビタミン、ミネラル、タンパク質、脂質などの栄養素が適切に取り込まれない状態を指します。この症候群の最大の特徴は、十分に食事を摂っているにもかかわらず体重が減少していくことです。
下痢や脂肪便(油っぽくて便器に浮く便)、腹部膨満、慢性疲労、筋力の低下、骨の脆弱化など、多彩な症状が現れます。原因としては、セリアック病、クローン病、慢性膵炎、胆汁分泌異常、小腸切除後症候群などがあり、どれも専門的な治療を要する疾患です。診断には血液検査、便検査、内視鏡、生検などの検査が用いられます。
セリアック病
セリアック病は、グルテンに対する自己免疫疾患で、小腸の絨毛が破壊されてしまうことにより栄養の吸収が著しく低下します。典型的な症状としては、慢性の下痢、体重減少、貧血、疲労感があります。成人になってから発症するケースもあり、見逃されやすい病気です。
完全な治療法は存在しませんが、グルテン(小麦・ライ麦・大麦など)を完全に除去した食事を続けることで、腸の粘膜が回復し、症状が軽減されることがわかっています。
慢性膵炎
膵臓は脂肪やタンパク質の消化に不可欠な酵素を分泌しますが、慢性的な炎症が続くとその機能が低下し、脂肪の消化がうまくできなくなります。その結果、脂肪便や慢性下痢、体重減少といった症状が現れます。
膵炎の主な原因は長期にわたるアルコール摂取ですが、胆石や自己免疫、特発性のものも存在します。治療は、食事療法(低脂肪・高たんぱく食)や、消化酵素の補充療法が中心となります。
炎症性腸疾患(IBD)
クローン病の特徴

クローン病は、消化管のあらゆる部位に炎症や潰瘍ができる慢性疾患で、特に小腸と大腸が好発部位です。慢性的な下痢、腹痛、発熱、体重減少が代表的な症状で、若年層(10〜30代)に多く見られます。炎症の範囲が広くなると、腸の狭窄や瘻孔(ろうこう)といった合併症を引き起こすこともあります。治療は炎症を抑える薬(ステロイドや免疫抑制剤、生物学的製剤)を用いたり、腸の狭窄や穿孔に対しては外科手術が必要になる場合もあります。再発を繰り返すため、長期的な管理が必要不可欠です。
潰瘍性大腸炎の特徴
潰瘍性大腸炎もIBDに含まれる疾患で、大腸のみに炎症が起こるのが特徴です。症状は血便、粘液便、腹痛、頻繁な下痢などで、重症例では10回以上の排便を伴います。こちらも若年〜中年層に多く、再発と寛解を繰り返す病気です。クローン病との違いは、病変の範囲や深さ、発生部位です。潰瘍性大腸炎は主に粘膜層に炎症が留まり、直腸から連続的に病変が広がるのに対し、クローン病は全層性の炎症で、部分的に飛び飛びの病変(skip lesion)が見られます。
がんによる体重減少と下痢

大腸がん
大腸がんの初期症状としてよく見られるのが、便通異常(下痢や便秘の繰り返し)、血便、腹痛などです。進行すると腫瘍によって腸が狭窄し、便が通りにくくなったり、部分的に閉塞したりするため、食欲不振や体重減少を招くことがあります。大腸がんは早期発見であれば治癒率が非常に高いですが、症状が出た段階では中等度〜進行期であることも少なくありません。40歳以上で、便通異常が1ヶ月以上続くようなら、内視鏡検査を受けることが望ましいです。
膵臓がん
「沈黙の臓器」と言われる膵臓にできるがんは、初期症状が乏しく、発見されたときにはすでに転移していることが多い厄介ながんの一つです。代表的な症状には、体重減少、背部痛、黄疸、脂肪便、食欲不振などがあります。膵臓がんでは膵液の分泌が阻害されるため、脂質の消化吸収が著しく低下し、慢性的な下痢や栄養失調を引き起こします。発見が難しい病気だからこそ、これらの兆候を見逃さないことが大切です。
悪性リンパ腫
悪性リンパ腫の中には、腸管に病変を形成するタイプもあり、慢性的な下痢、体重減少、腹部膨満感、微熱などが続きます。症状が非特異的なため、IBSや消化不良と誤診されることもあります。確定診断には、内視鏡検査と生検が必要です。リンパ腫は抗がん剤による化学療法が主な治療となりますが、早期に診断しないと他臓器への転移や全身症状が進行してしまう恐れがあるため、体重減少や下痢が続く場合には早めの精査が重要です。
内分泌・代謝系の病気
甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)

甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると、身体の代謝が著しく活発になり、エネルギー消費が増大します。その結果、食欲はあるのに体重が減少するという不思議な状態が起こります。さらに、甲状腺ホルモンは腸の動きも活発にするため、慢性的な下痢や軟便が続くことがあります。
この状態は「バセドウ病」に代表され、動悸、手の震え、汗かき、イライラ、不眠、筋力低下などを伴うこともあります。診断は血液検査(TSH・FT4・FT3)で可能で、治療には抗甲状腺薬や放射性ヨウ素療法、場合によっては手術が行われます。
糖尿病と腸のトラブル
糖尿病が進行すると「自律神経障害」を引き起こし、胃や腸の働きが乱れてしまいます。その結果として、慢性下痢や便秘、ガスの異常発生、腹部膨満などの症状が起きることがあります。特に「糖尿病性下痢」は夜間に多く、生活の質を大きく低下させます。
また、糖尿病によって高血糖状態が続くと、筋肉量が減少し、見た目にも急激な体重減少がみられることがあります。消化器症状がある糖尿病患者では、神経障害だけでなく、悪性疾患や吸収不良も鑑別診断として考慮する必要があります。
感染症・寄生虫による慢性下痢
寄生虫症(ジアルジア症・アメーバ赤痢など)

水や生ものを介して感染する寄生虫が原因で、慢性的な水様性下痢や体重減少を引き起こすことがあります。特にジアルジアやアメーバ赤痢は、東南アジアや南米、アフリカなどの旅行で感染する例が多く、「旅行者下痢症」としても知られています。寄生虫による下痢は長期間にわたることがあり、整腸剤や抗菌薬では改善しないこともあります。便の顕微鏡検査や抗原検査で診断され、抗寄生虫薬での治療が必要です。
慢性腸チフスやHIV関連疾患

サルモネラ菌による腸チフスが慢性化すると、微熱と下痢、体重減少が長期にわたって続くことがあります。また、HIV感染者では免疫力の低下により、カンジダ性腸炎やサイトメガロウイルス腸炎などの機会感染症を起こしやすく、これらも激しい下痢や体重減少の原因となります。こうした感染症は診断が難しく、一般的な検査では原因が特定されないこともしばしばです。免疫不全が疑われる場合には、感染症内科や専門外来での診断が必要になります。
ストレスや心因性の疾患

①過敏性腸症候群(IBS)との関係
IBSは腸に器質的な異常が見られないにもかかわらず、慢性的な腹痛や下痢、便秘などが続く疾患です。ストレスや不安、生活習慣の乱れが引き金となりやすく、日本人の10〜15%が罹患していると言われています。IBSは「下痢型」「便秘型」「混合型」に分けられ、特に下痢型では食後すぐの腹痛と下痢が頻繁に起こります。体重減少は典型的ではありませんが、ストレスによる食欲不振と併発することで体重が落ちるケースもあります。治療は食事管理、生活習慣の改善、必要に応じて薬物療法や心理療法も行われます。
②摂食障害との関連性
神経性食欲不振症(拒食症)や過食嘔吐を繰り返す神経性過食症では、体重減少と下痢の両方が見られることがあります。食事量の極端な制限や下剤の乱用により腸が傷み、吸収障害が起こることも少なくありません。摂食障害は身体だけでなく精神的にも重篤な状態を引き起こすため、早期に心療内科や精神科での介入が求められます。特に10代〜20代女性に多く見られるため、周囲のサポートが非常に重要です。
子ども・高齢者の注意点

成長障害を伴う小児疾患
子どもの場合、体重減少や下痢が続くことは成長障害のサインであることが多く、特に注意が必要です。小児ではセリアック病や乳糖不耐症、炎症性腸疾患、寄生虫感染、免疫異常などが原因で栄養吸収が妨げられ、身長や体重の伸びに影響を与えることがあります。また、食物アレルギーや小麦・牛乳などの特定成分に対する過敏症も下痢や便の異常、発疹、腹痛といった症状を引き起こすため、成長の記録と症状の経過をしっかりと観察し、小児科での早期診断と管理が重要です。
高齢者の消化器がんや慢性炎症
高齢者では、加齢により腸の機能が低下する一方で、腸内の悪性腫瘍や慢性の炎症性疾患も増加傾向にあります。特に大腸がんや膵がん、悪性リンパ腫などは体重減少と下痢を伴うことが多く、便の形状や回数、においの変化なども重要な指標となります。また、咀嚼力や唾液分泌の低下、胃酸の分泌不良、胃・膵機能の低下によって食物の消化・吸収がうまく行われず、慢性的な栄養不足に陥ることもあります。高齢者の場合、症状が出にくい傾向があるため、定期的な健診や医療チェックが不可欠です。
診断に必要な検査
血液検査と便検査
体重減少と下痢の原因を探るには、まず血液検査と便検査が基本になります。血液検査では、貧血、炎症反応(CRP)、電解質バランス、肝臓・腎臓機能、甲状腺ホルモン、腫瘍マーカーなどがチェックされ、疾患の手がかりとなります。便検査では、寄生虫の有無、脂肪便の確認、潜血の有無、腸内細菌バランスなどを評価します。便のpHや便中カルプロテクチンといった指標で炎症性疾患の可能性を推定することも可能です。
内視鏡検査

大腸や小腸の粘膜を直接観察することで、潰瘍、ポリープ、がん、炎症の有無を確認することができます。大腸内視鏡(大腸カメラ)は特に重要で、疑わしい部位から組織を採取し、病理検査(バイオプシー)によって正確な診断が可能となります。また、小腸に病変がある場合には、小腸内視鏡やカプセル内視鏡が使用されることもあります。
画像検査(CT/MRI)

腸の壁の厚み、リンパ節の腫れ、腫瘍の有無、膵臓や肝臓の状態などを評価するために、腹部CTやMRIが行われます。特に膵臓や腹膜、リンパ系の腫瘍は血液検査や内視鏡では把握しきれないため、画像診断が重要です。
体重減少と下痢が続くときのセルフチェックリスト
以下のチェック項目に3つ以上当てはまる場合は、医療機関を早急に受診してください。
・食事制限をしていないのに体重が減ってきている
・1か月以上下痢が続いている(1日3回以上)
・下痢に血液や粘液が混じっている
・食後すぐに腹痛とともに便意を催す
・脂肪便(油が浮いたような便)が見られる
・強い疲労感や倦怠感が続く
・家族や近親者に消化器系疾患の既往がある
このリストはあくまでも自己判断の補助です。症状に不安がある場合は、必ず専門医に相談しましょう。
よくある質問(FAQ)
便が毎日出ているのに体重が減るのはなぜ?
栄養がうまく吸収されていない可能性があります。吸収不良や膵機能不全などを疑いましょう。
食べるとすぐ下痢になるけれど体重は変わらない。それでも病気?
体重が変わらなくても、腸に負担がかかっている可能性があります。慢性下痢は体内に炎症や異常が隠れているサインです。
健康診断で異常なし。なのに体重が減って下痢もあるのはなぜ?
健診では検出されない疾患(吸収不良、寄生虫、IBSなど)もあります。専門科で追加検査を受けましょう。
食欲があるのにどんどん痩せていくのはどんな病気?
甲状腺機能亢進症、膵機能不全、がんなどが考えられます。血液検査と画像検査が推奨されます。
市販薬で様子見しても良いのはどのくらい?
一時的な食あたりや軽度の胃腸炎なら数日〜1週間ですが、それ以上続く場合は医療機関へ。
ダイエットで痩せたのに下痢が止まらない。病気?
ダイエット中の栄養不足やサプリの過剰摂取も原因になりますが、症状が長引くなら他疾患を疑うべきです。

