
院長 友利 賢太
資格
- 医学博士(東京慈恵会医科大学)
- 日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
- 日本大腸肛門病学会 大腸肛門病専門医
- 日本消化器病学会 消化器病専門医
- 日本消化器外科学会 消化器外科専門医・指導医
- 日本消化器外科学会 消化器がん外科治療認定医
- 日本消化器内視鏡学会
上部消化管内視鏡スクリーニング認定医 - 日本消化器内視鏡学会
大腸内視鏡スクリーニング認定医 - 日本外科学会 日本外科学会専門医
- 日本消化管学会 消化管学会専門医
- 日本ヘリコバクター学会 H. pylori 感染症認定医
- 4段階注射療法受講医
- 東京都難
目次
正常な便の色と黒色便の違いとは

健康な便の色とは何色か?
私たちの排泄する便は、体調や食生活、腸内環境によって日々微妙に変化しています。通常、健康な便は黄褐色から茶褐色とされており、これは胆汁の色素「ビリルビン」が大腸で変化した結果です。水分量や食物繊維の摂取量によって明るめになったり、やや濃くなったりすることはありますが、基本的には茶系の色調が「健康の証」とされています。
黒色便とはどんな状態?

便の色が明らかに黒く、ツヤがありベタついている場合、それは「タール便(メレナ)」と呼ばれる状態で、消化管からの出血のサインである可能性があります。胃や十二指腸、小腸など上部消化管で出血があると、血液が胃酸や消化酵素によって分解され、黒く変色して便と一緒に排出されます。ただし、食べ物や薬によっても便が黒くなることがあるため、すぐに病気と結びつけるのは早計です。まずは、何を食べたか、薬を服用していないかを確認し、それでも黒色便が続くようであれば、消化器系の疾患を疑う必要があります。
便が黒くなる一般的な原因

食事による変化(鉄分/イカスミ/黒ゴマなど)
黒色便のもっとも身近な原因は食事によるものです。特に鉄分を多く含む食材や黒色成分の強い食品を摂取したあとに、一時的に便が黒くなることがあります。代表的な食品としては、レバーやほうれん草などの鉄分豊富なもの、イカスミパスタ、黒ゴマ、海苔、黒豆などがあります。これらの食品は一見無害ですが、便の色に強く影響するため、食後しばらくは黒っぽい便が出ることがあります。
この場合、便の色は1〜2日で通常に戻り、便の形状や排便リズムには異常がありません。色以外に体調不良が見られない場合には、まずは食事が原因である可能性が高いといえます。
薬剤(鉄剤・活性炭・胃薬など)による影響
一部の薬剤もまた、便の色を黒く変化させる要因となります。特に鉄剤(フェロミア、マスチゲンなど)は貧血治療でよく処方され、服用するとほぼ確実に黒っぽい便が出るようになります。これは薬の色そのものが便に混ざるためで、病的な出血とは無関係です。活性炭や下痢止め(正露丸)も便を黒く変えることで知られており、特に整腸目的でこれらを服用している人は注意が必要です。ただし、黒色便が薬によるものか病的なものかを判断するには、その他の症状(腹痛、吐血、倦怠感など)の有無をあわせて見る必要があります。
病的な黒色便とは?消化器疾患の可能性
前述したような原因は、あくまで一時的なものであり、正常な反応です。しかし、最も恐ろしいのは、その黒色便が腸や胃などからの出血などが原因だった場合です。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍からの出血
もっとも頻繁に黒色便を引き起こす疾患が、胃潰瘍や十二指腸潰瘍です。胃酸やピロリ菌の影響で胃の粘膜が損傷し、出血が生じると、その血が消化管を通る過程で黒く変化して便に混ざります。潰瘍による出血は一度に多量でないこともあり、黒色便だけが唯一の自覚症状ということもあります。特に、以前から胃痛や胃もたれ、空腹時のキリキリとした痛みを感じていた方は、黒色便が潰瘍悪化のサインとなっている可能性があるため、早急な検査が必要です。
胃がん・食道がん・小腸出血の可能性

黒色便は消化器がんの初期症状として現れることもあります。特に、胃がんや食道がん、小腸の腫瘍が出血を伴った場合、黒い便として排出されることがあります。この場合、出血が少量であっても慢性的に続くことで、黒色便の頻度が増えたり、貧血症状が現れたりします。早期のがんは自覚症状が少ないため、「なんとなく便の色がおかしい」と感じた段階での検査が、命を守ることにつながります。
大量出血によるタール便(メレナ)とは
便の色が明らかに黒く、ツヤがあり、油のような質感がある場合、それは「メレナ(タール便)」と呼ばれ、上部消化管からの出血が強く疑われる状態です。この便は非常に特有の強い臭いを持っており、一度でも経験すれば忘れられないほどの異常性があります。メレナが出た場合は、緊急性が高く、入院・輸血が必要なケースもあるため、直ちに病院を受診すべきです。
黒色便を見たときにチェックすべき症状
黒色便が出たとき、その色だけにとらわれるのではなく、他に現れている症状にも目を向けることが非常に重要です。出血性の消化器疾患では、便の色の変化に加え、さまざまな体の異常が同時に現れることがあります。
吐き気・胃痛・腹部不快感
上部消化管からの出血がある場合、前兆として胃痛や吐き気、胸やけなどの消化器症状が見られることが少なくありません。特に胃潰瘍や十二指腸潰瘍では、空腹時にキリキリとした痛みを感じることが多く、胃がんの場合には食欲不振やみぞおちの不快感として現れることもあります。また、胃の内容物が停滞することで膨満感を覚えたり、胸のあたりが重く感じたりする症状も、注意すべき兆候です。便の色が黒く、これらの症状を伴っている場合には、病的な出血をまず疑う必要があります。
貧血・息切れ・めまいなどの全身症状

慢性的な出血が続いていると、体内の鉄分が失われていき、鉄欠乏性貧血を引き起こす可能性があります。このような場合、疲れやすい、立ちくらみがする、少し歩いただけで息が切れるなどの全身症状が出現します。さらに、顔色が悪くなったり、爪が反り返るスプーンネイル、動悸、集中力の低下なども貧血のサインです。特に女性や高齢者は自覚しにくい場合があるため、「最近ずっとだるい」「便が黒くなってきた」といった違和感を感じたら、早期の血液検査が望まれます。
便の色でわかる消化器の異変とその見分け方
黒色便は特に注意が必要ですが、便の色は他にもさまざまな体の状態を示しているため、色の違いごとにその原因とリスクを把握しておくことが大切です。

黒色・赤色・灰色・緑色の違いと原因
黒色便は、主に胃や十二指腸、小腸などの「上部消化管出血」が疑われます。一方で、便に血が混じって鮮やかな赤色であった場合、それは肛門や直腸、大腸の出血が強く示唆されます。痔、直腸ポリープ、大腸がんなどが原因です。灰白色の便が続く場合、これは胆汁の流れが滞っている可能性があり、胆石症や胆道閉塞、肝疾患の初期サインとなることもあります。緑色の便は、腸の通過時間が短く、胆汁色素が変化する前に排出されるケースで、下痢や食中毒、抗生物質の影響で見られます。
黒い便=出血とは限らないが見極めが必要
黒色便を見たとき、必ずしも出血と結びつける必要はありませんが、他の原因(食事・薬剤)を除外したうえで黒色が継続している場合は、消化器出血を第一に考えるべきです。特に、色だけでなく便の質感が「ねばねばして光沢がある」「悪臭が強い」といった特徴を持っていれば、タール便の可能性が高まります。最終的な判断は医師による検査が必要ですが、色の変化をきっかけに健康への注意を向けることが、予防と早期発見につながります。
黒色便が出たときの受診の目安と診療科
黒色便を見たとき、「しばらく様子を見てもよいのか、それとも今すぐ病院に行くべきなのか」と判断に迷う方は少なくありません。ここでは、受診のタイミングと適切な診療科について、具体的にご説明します。
いつまで様子を見る?どの症状で受診すべき?
まず、黒色便が1回だけで、明らかに鉄剤やイカスミ料理、黒ゴマなどを食べた後であるとわかっている場合は、1〜2日様子を見ても問題ないケースが多いです。しかし、2日以上続く、または食事や薬の影響が考えにくい場合は、自己判断を避けて専門医に相談することが大切です。さらに、前述したような症状がある場合は、黒色便が出た回数に関係なく、早急に受診する必要があります。特に、色だけでなく便の質感に変化があり、臭いがきつく、ねっとりとした黒光りする便の場合は、タール便の可能性が高く、上部消化管からの出血が進行している危険性もあります。
消化器内科・内視鏡専門医の役割
受診する際には、まず消化器内科が最も適切な診療科です。症状に応じて、内視鏡検査(胃カメラ・大腸カメラ)などの精密検査を行い、出血の原因や部位を明らかにします。近年では「内視鏡専門医」も増えており、消化器疾患の早期発見と治療において非常に重要な役割を担っています。出血の程度や出血源の状態によっては、止血処置、内服薬、あるいは手術の判断が必要になるため、専門医の診断を仰ぐことが命を守る行動になります。
検査方法と診断の流れ
黒色便を伴う消化器症状の診断は、主に原因となる出血の有無と部位の特定を目的として行われます。以下は代表的な検査の流れとその意義です。
便潜血検査・血液検査・内視鏡検査

まず、手軽に行えるのが便潜血検査です。肉眼では見えない微量の血液が便に含まれていないかを調べるもので、スクリーニング検査として非常に有用です。次に、血液検査では、貧血の有無や炎症反応、肝機能、腎機能などをチェックします。ヘモグロビン値が低下していれば、消化管からの慢性的な出血が疑われ、腫瘍マーカー(CEAなど)が高ければ悪性腫瘍の可能性が視野に入ります。
もっとも決定的な検査が内視鏡検査です。胃カメラで食道、胃、十二指腸の内部を直接観察することで、潰瘍やがん、ポリープなどの有無を確認できます。必要に応じて生検(組織を採取)を行い、病理検査によって良性か悪性かを判別することも可能です。大腸に問題があると疑われる場合には、大腸内視鏡検査を行うことで、大腸がんや潰瘍性大腸炎などの疾患を確認できます。
出血源の特定と治療方針の決定

出血が認められた場合は、止血処置が最優先となります。潰瘍などからの出血では、内視鏡による止血クリップや薬剤の局所噴霧などが実施され、出血をコントロールします。その後、原因となった疾患に応じて、抗潰瘍薬、抗菌薬、抗がん剤などの治療が計画されます。慢性的な症例では、経過観察とともに定期的な内視鏡フォローアップが行われ、再発予防に努めることが一般的です。
放置するとどうなる?リスクと合併症
便が黒くなる原因が消化器出血によるものであるにもかかわらず放置してしまうと、重篤な合併症を引き起こす可能性があります。黒色便は体の異常を知らせるサインであり、「そのうち治るだろう」と自己判断していると、命に関わる事態に至ることもあります。
慢性出血による鉄欠乏性貧血

小さな出血であっても、日々少しずつ続いている場合、体内の鉄分が消耗し、鉄欠乏性貧血を引き起こします。このタイプの貧血は、自覚症状が乏しいことも多く、「なんとなく疲れやすい」「最近やたらと息が切れる」といった微妙な変化として現れます。進行すると、めまい、ふらつき、頭痛、集中力の低下などが日常生活に影響を与えるほどになります。また、爪がもろくなったり、脱毛が進んだりといった見た目にも影響する症状が起こることもあり、貧血が慢性化すると治療にも時間がかかります。
消化管出血によるショック症状

潰瘍や腫瘍からの出血が大量に発生した場合、急激に血圧が下がり、出血性ショックに陥ることがあります。特に高齢者や持病のある方では、1回の大量出血が命に関わる可能性も高くなります。タール便が何度も出ている、または黒い便が続くなかでふらつきや冷や汗、意識のもうろうなどが見られた場合は、すぐに救急車を呼ぶべき状態です。この段階になると、輸血や緊急内視鏡による止血処置、場合によっては外科手術が必要になるケースもあります。
予防のためにできる生活習慣の見直し
黒色便を未然に防ぎ、消化器疾患から身を守るには、日常生活での意識がとても大切です。以下に、今日から実践できる予防ポイントを紹介します。
胃腸を守る食生活・ストレスケア

まずは、胃酸の過剰分泌や粘膜の傷つきを防ぐための食生活の見直しが基本です。空腹時にカフェインや刺激物(アルコール、香辛料など)を摂ることは避け、バランスの取れた食事と規則的な時間での食事を心がけましょう。
また、ストレスの蓄積は胃腸の機能に直結します。仕事や家庭での精神的負荷が多いと、消化管の動きが乱れ、潰瘍を引き起こしやすくなります。軽い運動や趣味の時間、睡眠の質を高める工夫など、自律神経を整える生活を意識することが、消化器疾患の大きな予防につながります。
定期的な健診と内視鏡チェックの重要性

特に40歳を超えた方、過去に胃潰瘍の経験がある方、消化器疾患の家族歴がある方は、年に1回の内視鏡検査を受けることが推奨されます。早期の胃がんやポリープは、症状が出る前に発見・治療できるため、検査による予防効果は非常に高いです。便潜血検査や血液検査も合わせて行うことで、体の中で起こっている「まだ見えない異変」を早く察知することが可能になります。医療機関の定期利用は、病気の早期発見と同時に、健康意識の維持にもつながります。
よくある質問(FAQ)
黒色便が出ましたが、食事のせいか病気かがわかりません。どう判断すれば?
直近で鉄剤や黒ゴマ、イカスミ、海藻類などの黒っぽい食品を摂取していないか確認しましょう。心当たりがなければ、2日以上続くようなら病的な出血の可能性がありますので、消化器内科を受診してください。
黒色便が出たのに痛みがありません。病気でない可能性はありますか?
痛みがなくても、出血性疾患は進行することがあります。特に、胃がんや潰瘍は無症状のまま進行するケースもあるため、症状の有無にかかわらず、色の変化を感じたら検査が推奨されます。
黒い便が1回出ただけで受診すべきですか?
一度だけで他に症状がない場合は様子見でもよいですが、続けて2回以上出る、便の質感がタール状、強い臭いがある場合には、必ず専門医を受診してください。
鉄剤を飲んでいて黒い便が出ていますが、体に悪影響はない?
鉄剤による黒色便は副作用ではなく、生理的な変化です。ただし、胃の不快感や吐き気が続く場合は、医師に相談し、剤形や処方の見直しを受けましょう。
便が黒くても、痔による出血という可能性はありますか?
痔による出血は、通常鮮やかな赤い血が便の表面やトイレットペーパーに付着する形で現れます。黒色便とはメカニズムが異なりますので、明らかに黒く粘性がある場合は、より深い部位からの出血が疑われます。

