

院長 友利 賢太
資格
- 医学博士(東京慈恵会医科大学)
- 日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
- 日本大腸肛門病学会 大腸肛門病専門医
- 日本消化器病学会 消化器病専門医
- 日本消化器外科学会 消化器外科専門医・指導医
- 日本消化器外科学会 消化器がん外科治療認定医
- 日本消化器内視鏡学会
上部消化管内視鏡スクリーニング認定医 - 日本消化器内視鏡学会
大腸内視鏡スクリーニング認定医 - 日本外科学会 日本外科学会専門医
- 日本消化管学会 消化管学会専門医
- 日本ヘリコバクター学会 H. pylori 感染症認定医
- 4段階注射療法受講医
- 東京都難
目次
なぜ体がだるくなり、食欲がなくなるのか?
体のだるさや食欲不振は、日々の生活の中でも多くの人が経験するごく一般的な不調です。忙しさやストレス、睡眠不足などでも現れるこれらの症状。しかし、その陰に深刻な病気が隠れていることもあるのです。特に「いつもと違うだるさ」「継続する食欲不振」は注意が必要です。
私たちの体は、胃を通じて栄養を取り込み、そこから全身にエネルギーを届けています。胃の働きが滞ると、消化・吸収のプロセスが乱れ、体は必要な栄養素を得られず、エネルギー不足に陥ります。その結果として、「倦怠感」や「脱力感」が出現します。
また、胃の不調は自律神経やホルモン分泌にも影響を及ぼします。特にがんのような慢性的な炎症状態では、免疫系が活性化し続けることで全身に疲労物質が広がり、脳に「休みたい」「食べたくない」というシグナルが送られるようになります。これが、だるさと食欲低下につながっているのです。
このような背景から、もし「だるい・食べたくない」という症状が数日〜数週間続く場合、単なる疲れではなく、内臓疾患や胃がんなどの重大な病気のサインである可能性も視野に入れる必要があります。
胃がんとはどんな病気?
胃がんは、胃の内側を覆っている粘膜の細胞が異常を起こし、無秩序に増殖することで発生する悪性腫瘍です。日本では依然として罹患率が高く、特に高齢男性に多くみられる傾向があります。早期に発見すれば治癒も可能な病気ですが、初期段階では自覚症状が乏しいため、見逃されることが多いのが現実です。
胃は食物を受け入れ、消化し、十二指腸へと送り出す重要な器官であり、食べたものの質や量、食習慣の影響を大きく受けます。胃がんはこの胃の粘膜から発生し、「噴門部(胃の入り口)」「体部(中央)」「幽門部(出口付近)」など部位によって分類されます。
胃がんの原因としては、ピロリ菌感染が最も大きな要因とされており、長期間にわたる慢性的な胃炎が粘膜の異形成(前がん状態)を引き起こし、そこから発展するケースが多いとされています。また、喫煙、塩分の多い食事、ストレス、遺伝などもリスクファクターとして知られています。
がんが進行すると、粘膜の下にある筋層、さらにはリンパ節や他臓器へと転移していきます。進行度によって治療方針が大きく異なるため、早期に発見することが極めて重要です。
胃がんの初期症状を見逃さないために
胃がんの怖さは、初期症状が非常にあいまいであることにあります。日常でよくある体調不良と区別がつきにくいため、気づかないまま病状が進行してしまうケースが多いのです。
初期段階での胃がんは、ほとんどの場合、痛みなどの強い症状は出ません。代わりに現れるのが、「胃もたれ」「軽い吐き気」「なんとなく食欲が出ない」「食後に膨満感がある」といった、非常に軽度で漠然とした症状です。これらは風邪や過労、食べ過ぎなどと混同されやすく、特に注意が必要です。
また、倦怠感や微熱、貧血といった全身症状が先に現れることもあります。特に女性や高齢者では「歳のせい」や「疲れかな」と思って受診が遅れることもあり、これが早期発見を難しくしています。
こうした初期症状に気づくためには、自分自身の体調の「いつもと違う変化」に敏感になることが大切です。たとえ些細な不調でも、「毎日続く」「徐々に悪化している」と感じたら、一度は消化器内科など専門医の診察を受けてみるべきでしょう。
「だるさ」と「食欲不振」は胃がんの初期サイン?
「体がだるい」「食欲が湧かない」といった症状は、胃がんの初期に現れる可能性のあるサインの一つです。一般的にはあまりがんとは結びつきにくいこのような症状ですが、胃の内部で静かに進行している変化が、全身症状として現れている場合があるのです。
がん細胞が増殖することで、体は慢性的な炎症状態に置かれます。すると、免疫系は常に活性化し、体内に疲労物質や炎症性サイトカインが放出されます。これらが脳に作用すると、「休息したい」「食べたくない」といった反応が起こり、結果としてだるさや食欲不振につながるのです。
さらに、胃がんによって消化吸収がスムーズに行えなくなると、栄養不足が進み、倦怠感や無気力を助長します。特にがんの進行とともに「体重減少」「微熱が続く」「貧血がある」といった症状が加わる場合は、内臓疾患を疑う必要があります。
したがって、だるさと食欲不振が数日〜数週間続くようであれば、「ただの疲れ」や「食べ過ぎのせい」と考えず、重大な病気の可能性を否定しない視点が重要です。少しでも不安を感じたときは、病院で血液検査や胃の検査を受けておくと安心です。
その他の初期症状に見られる特徴とは
胃がんの初期症状は極めて曖昧で、一般的な体調不良と区別がつきにくいものが多いですが、「だるさ」や「食欲不振」に加えて出やすいその他のサインもいくつかあります。それらに気づくことで、胃がんの早期発見につながる可能性があります。
まず多くの患者が感じるのは、「胃の違和感や重さ」です。食後に胃がもたれる、すぐに満腹になってしまう、少しの食事でも胃に圧迫感を感じるといった症状は、胃の粘膜に異常が生じているサインかもしれません。これらは「機能性ディスペプシア」とも似ていますが、がんの初期でもよく見られます。
また、「ゲップが増える」「胸やけが続く」「軽い吐き気」なども軽視してはいけない症状です。特に、脂っこい食事や香辛料を避けているのに症状が続く場合は、粘膜の異常を疑ってもよいでしょう。
さらには、「黒い便(タール便)」や「鉄欠乏性貧血」がある場合には、胃からの微量出血が疑われます。これは胃がんが血管に浸潤し始めているサインでもあり、より深刻な段階に近づいている可能性があります。
こうした軽微な症状は、「疲れ」「年齢」「体質のせい」と見過ごされがちですが、1週間以上続く、もしくは日常生活に影響が出るレベルの不快感であれば、早めの受診が推奨されます。
進行するとどうなる?胃がんの段階的症状
胃がんが進行すると、初期段階では目立たなかった症状が次第に顕著になっていきます。中期~進行期になると、体が発するサインも明確になりますが、その頃には治療の選択肢が限られてしまうこともあるため、注意が必要です。
最もよく見られるのは、「急激な体重減少」です。がん細胞は体内のエネルギーを奪い、食欲もさらに落ちるため、短期間で何kgも減ることがあります。また、「強い胃の痛み」や「食後の嘔吐」といった症状も出始め、日常生活に支障をきたすようになります。
さらに深刻なのが、「吐血」や「黒色便(タール状の便)」といった出血性の症状です。これは胃がんが胃壁を破り、血管を侵して出血を起こしている状態で、貧血や意識障害、ショック状態になることもあります。
また、がんが胃の外に広がる「浸潤」や「リンパ節・肝臓・肺などへの転移」が起きると、胃以外の臓器にも症状が出現します。例えば腹水が溜まってお腹が張る、黄疸が出る、息切れや咳が増えるといった形で現れることもあります。
このように進行した胃がんの症状は明確で重いですが、それゆえに治療の選択肢が手術に限られず、化学療法や緩和医療が中心になる場合も少なくありません。だからこそ、初期の“軽い不調”のうちに気づくことが、命を守る最善策なのです。
早期胃がんは症状がないこともある?
実は、胃がんの最も厄介な点は、早期段階では全く症状が出ないケースがあるということです。がんがまだ粘膜内にとどまっている「早期胃がん」は、痛みも不快感もないまま静かに進行していくため、症状が現れたときには既に進行しているということも珍しくありません。
このような場合、唯一の早期発見の手段となるのが定期的な健康診断、特に内視鏡(胃カメラ)検査です。胃カメラは粘膜の微細な変化を直接観察できるため、症状が出る前の異常を発見するのに最も有効な手段です。
内視鏡で発見された早期胃がんの多くは、内視鏡的切除(ESDやEMR)という方法で完治が可能です。これは体への負担が少なく、開腹手術を避けられるため、早期発見のメリットは非常に大きいといえます。
年に一度の検診で命を守れる可能性があるという事実は、多くの人にとって見過ごされがちです。とくに、家族に胃がん経験者がいる方、40代以上の方、ピロリ菌感染歴がある方は、症状がなくても定期検査を受けるべきです。
胃がんとピロリ菌の関係
胃がんの最大のリスクファクターとされているのが、「ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)」です。この細菌は胃の粘膜に住み着き、長期間にわたり炎症を引き起こすことで、最終的に胃がんへと進行する可能性があります。実際に、胃がん患者の約90%はピロリ菌感染歴があるとされており、除菌の重要性が年々高まっています。
ピロリ菌は主に幼少期に家族間で感染すると言われており、日本の高齢世代では感染率が非常に高いことがわかっています。感染すると、まずは「慢性胃炎」が起こり、進行すると「萎縮性胃炎」「腸上皮化生」などの前がん病変を経て胃がんに至る、という流れが一般的です。
ピロリ菌の有無は、血液・尿・便・呼気検査などで簡単に調べることができます。陽性だった場合は「除菌治療」が保険適用で行えます。除菌によってすべてのリスクがゼロになるわけではありませんが、将来的な胃がんの発症リスクを大幅に下げることが証明されています。
一度も検査を受けたことがない人は、自覚症状がなくても、特に40歳以上であれば一度はピロリ菌検査を受けておくと安心です。早期の検査と治療が胃がんの予防につながります。
胃がんとストレス・生活習慣の関係性
胃がんの発症には、ピロリ菌以外にも日常の生活習慣やストレスの影響が深く関与しています。中でも、偏った食事、喫煙、過度な飲酒、慢性的なストレスは、胃の粘膜を傷つけ、がんの発症リスクを高める要因とされています。
まず、高塩分食や加工食品(ハム・ソーセージなど)には発がん性物質(亜硝酸塩など)が含まれており、長期間の摂取は胃がんリスクを高めることが明らかになっています。また、喫煙者は非喫煙者と比べて、胃がんの発症率が1.5〜2倍に上がるというデータもあります。
一方で、精神的ストレスは胃酸分泌の異常や自律神経の乱れを引き起こし、胃の防御機能を低下させます。その結果、胃炎を引き起こしやすくなり、がんの土壌が整ってしまうのです。現代社会においては、仕事や家庭のストレスにさらされる機会が多く、知らず知らずのうちに胃に大きな負担をかけている人が少なくありません。
胃がん予防のためには、こうした生活習慣を見直し、バランスの取れた食生活、禁煙、節酒、そしてストレス管理が不可欠です。心と体の健康は、胃の健康にも直結しています。
胃がんになりやすい人の特徴
胃がんは誰にでも起こりうる病気ですが、発症しやすい傾向がある人には共通の特徴があります。自分が当てはまるかどうかを把握しておくことで、早期の対策につながります。
まず最も大きな要因は、ピロリ菌感染歴です。これまで感染歴がある、あるいは除菌治療を受けたことがある方は、その後も年に一度は胃カメラ検査などで経過観察が必要です。
次に、家族に胃がん患者がいる人も注意が必要です。遺伝的体質や生活環境を共有しているため、胃がんになりやすいリスクが高まります。また、高齢者(特に50代以上)や男性も発症率が高く、年齢とともに胃の粘膜が変化しやすくなります。
さらに、喫煙歴がある人や塩分・脂質中心の食生活をしている人もリスクが高いとされています。こうした人たちは、症状がなくても定期的な内視鏡検査を受けるべきです。
「自分は胃がんになりやすいタイプかも」と自覚することで、早めの予防や検診の行動がとれるようになります。リスクを知ることが最大の防御です。
気になる症状があったときの受診の目安
「ちょっと胃の調子が悪いな」と思っても、なかなか病院へ行く決心がつかないこともあります。しかし、胃がんは早期発見が命を救う病気です。以下のような症状が1週間以上続く場合は、迷わず医療機関を受診しましょう
・体がだるい、疲れが抜けない
・胃もたれ、胸やけ、軽い吐き気がある
・体重が減ってきた
・黒っぽい便や貧血症状がある
こうした症状がある場合には、消化器内科または内視鏡検査が可能なクリニックを選んで受診することをおすすめします。初診時に症状の経過や家族歴、食事内容などを記録しておくと、診断がスムーズになります。
特に40代以上で検診を受けたことがない方は、たとえ症状が軽くても、年1回の内視鏡検査を習慣化することが望まれます。
胃がんの検査と診断方法
胃がんを正確に診断するためには、いくつかの検査方法が用いられます。もっとも確実なのが上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)です。胃の中を直接観察し、怪しい部分があればその場で組織を採取(生検)して病理検査を行うことで、がんかどうかを確定できます。
その他にも、「バリウム検査(胃透視)」がありますが、こちらは凹凸や変形などを間接的に確認する方法で、胃カメラほどの精度はありません。初期の小さながんは見逃されることもあるため、疑わしい場合は必ず胃カメラを併用します。
また、がんが進行している疑いがある場合は、「CT検査」で周囲のリンパ節や他臓器への転移を確認することもあります。加えて、「腫瘍マーカー(CEA、CA19-9など)」も血液検査で併用されることがありますが、初期の段階では反応しないケースも多いため、あくまで補助的な指標です。
このように、多角的な検査を組み合わせることで、より正確な診断と適切な治療方針が決定されます。