
院長 友利 賢太
資格
- 医学博士(東京慈恵会医科大学)
- 日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
- 日本大腸肛門病学会 大腸肛門病専門医
- 日本消化器病学会 消化器病専門医
- 日本消化器外科学会 消化器外科専門医・指導医
- 日本消化器外科学会 消化器がん外科治療認定医
- 日本消化器内視鏡学会
上部消化管内視鏡スクリーニング認定医 - 日本消化器内視鏡学会
大腸内視鏡スクリーニング認定医 - 日本外科学会 日本外科学会専門医
- 日本消化管学会 消化管学会専門医
- 日本ヘリコバクター学会 H. pylori 感染症認定医
- 4段階注射療法受講医
- 東京都難
目次
空腹感と食欲の違いを理解する
空腹感とは何か?

空腹感とは、私たちの身体がエネルギーや栄養を必要としているときに脳が察知し、「食べ物を摂取したい」と感じる本能的な反応です。主に、胃が空になったときに分泌される「グレリン」というホルモンが視床下部に作用し、脳へ信号を送ることで空腹感が生じます。また、血糖値の低下も空腹感の一因となり、身体のエネルギー源が減っていることを知らせる重要なサインです。この空腹感は、消化器の働きだけでなく、内分泌系や自律神経系とも密接に関係しており、体調や生活リズム、睡眠の質などによっても変動します。たとえば、同じ時間に毎日食事を摂っている人は、決まった時間になると空腹感を感じやすくなります。これは「条件付けられた空腹感」とも呼ばれ、実際にはエネルギーが不足していなくても、習慣によって空腹を感じるようになる現象です。
食欲との関係と仕組み

一方、食欲は空腹感とは異なる心理的な欲求に基づくものです。食欲は、視覚や嗅覚、記憶、感情など外的な要因によって強く影響を受けます。たとえば、満腹であるにもかかわらず、美味しそうなスイーツや香ばしい料理の匂いに誘われて「つい食べたくなる」のが食欲です。つまり、空腹が生理的な信号であるのに対して、食欲は感情や環境に左右される心の動きといえます。
この2つの感覚は通常連動していますが、ストレスや体調不良、胃の不調などがあると、空腹感はあるのに食欲がわかない、または逆に空腹を感じていないのに何かを食べたくなるといったアンバランスが生じます。この状態が慢性的に続く場合は、消化器機能やホルモンバランスに異常がある可能性があるため、注意が必要です。
胃の機能とその役割とは?
胃の構造と働き

胃は消化器の中でも中核的な役割を担っている器官で、口から入った食物が最初に本格的に処理される場所です。食道から送られてきた食物を一時的に蓄える「貯留」、食物を消化酵素と混ぜてドロドロにする「撹拌」、そして内容物を少しずつ小腸に送り出す「排出」という3つの働きがあります。胃の内壁には粘液が分泌され、強力な胃酸から自分の組織を守っています。さらに、胃の筋肉が一定のリズムで収縮・弛緩を繰り返すことで、食物が適切に分解されるようになっています。この一連の流れがスムーズであることによって、私たちは食事をしたあとに心地よい満足感を得られるのです。
しかし、この機能が低下すると、胃もたれや吐き気、食欲不振といった不快な症状が現れやすくなります。特に高齢者やストレスの多い人は、胃の動きが鈍くなりやすく、食事が楽しめなくなるという悪循環に陥りがちです。
胃酸、消化運動の役割

胃酸は、胃の中で最も重要な消化液のひとつであり、特にタンパク質の分解に不可欠な存在です。胃酸が適切に分泌されることで、食物に含まれる細菌を殺菌し、食物の内容を液状に近づけ、小腸での吸収を助ける準備を行います。また、胃の蠕動運動と呼ばれる筋肉の動きは、食物を物理的に細かくするだけでなく、胃液との混合を促し、より効率的な消化を実現します。これらの機能が低下すると、食物が胃に長くとどまってしまい、胃の中で腐敗が進んでガスが発生し、胃の膨張感やげっぷ、さらには悪心(吐き気)を引き起こします。
胃酸の分泌が弱まる原因としては、加齢、過度なストレス、ピロリ菌の感染、胃薬の長期使用などが挙げられます。とくに現代人はストレス社会の中で胃酸の分泌が乱れがちであり、それが「空腹なのに食べたくない」という違和感の原因になることもあります。
空腹なのに食べたくない原因とは
胃の運動機能低下(胃アトニー)

胃アトニーとは、胃の筋肉が弱まり、食べ物をスムーズに移動させるための収縮運動が十分に行えなくなる状態を指します。この状態にあると、胃に内容物が長く停滞し、物理的な満腹感や膨満感を感じやすくなります。実際にはお腹が空いていても、胃が「まだ食べ物がある」と誤認し、食欲を抑えてしまうのです。胃アトニーは、長時間の空腹後に大量に食べたときや、慢性的なストレス、消化に悪いものを摂り続けた生活習慣の蓄積によって発症しやすいです。高齢者では、筋肉の衰えが原因で自然と胃の動きが弱まることもあります。特徴的な症状としては、食後すぐに胃が重たく感じる、少量で満腹になる、ゲップが頻繁に出るなどが挙げられます。
このような症状が続くと、食事自体が苦痛になり、次第に「食べることそのもの」が億劫になってしまいます。空腹であるにもかかわらず、胃の不快感が勝ってしまい、食欲が起こらないというケースは、まさにこの胃アトニーによるものであることが多いのです。
胃の感覚過敏や逆流症状

胃の機能に明らかな異常が見られないにもかかわらず、少量の食事でも「不快」「重い」「痛い」といった違和感を強く感じてしまう状態は「胃の感覚過敏」と呼ばれます。この状態では、ほんのわずかな刺激でも胃が過剰に反応し、食欲を奪ってしまうのが特徴です。また、逆流性食道炎(GERD)も食欲減退に大きく関わる疾患のひとつです。胃酸が食道に逆流することで胸やけや喉のヒリつき、さらには慢性的な咳やのどの違和感を引き起こします。これらの症状が続くと、食事をするたびに不快感を感じ、次第に「またあの不快感が来るかも」と思って食事自体を避けるようになってしまうのです。
このような症状を抱える人は、食事量が自然と減っていき、栄養バランスの乱れや体重減少に陥ることも多いため、早期の診断と適切な対処が重要です。
ストレスや自律神経の影響

現代社会において非常に多い原因が「ストレス」によるものです。私たちの消化管は自律神経によってコントロールされており、特に胃はストレスの影響をダイレクトに受ける臓器のひとつです。ストレスが加わると交感神経が優位になり、胃の運動が抑制されるため、食べ物がうまく消化されず、胃もたれや不快感を引き起こします。この状態が慢性化すると、空腹であっても胃が「動かない」状態になり、食欲がわかなくなります。さらに、緊張や不安が強くなると、グレリン(食欲促進ホルモン)の分泌が抑えられ、食欲そのものが低下してしまうのです。
また、ストレスによって腸にも影響が及び、「脳腸相関」と呼ばれる現象によって、胃だけでなく全体の消化器系が敏感になり、ちょっとした不調でも強い不快感を感じるようになります。これは単なる「気のせい」ではなく、実際に身体が感じている反応であり、決して軽視すべきではありません。
胃の機能低下を引き起こす主な要因
加齢による胃の老化

年齢を重ねると、身体のあらゆる臓器が少しずつその機能を弱めていきますが、胃もその例外ではありません。加齢によって胃の筋肉が衰え、収縮する力が弱くなることで、食べ物を適切に撹拌し、次の消化段階へ送り出す能力が低下します。その結果、胃内に食物が長時間滞留し、もたれ感や膨満感が続くようになります。また、高齢者では唾液や胃酸の分泌も減少する傾向にあり、これも消化効率を下げる一因となります。食べた後の胃の中の重苦しさが持続しやすくなり、それが原因で「また同じ不快感を味わいたくない」と無意識のうちに食事への意欲を失ってしまうケースも少なくありません。
さらに、加齢によって味覚や嗅覚が鈍くなり、食事そのものの魅力を感じにくくなることも関係しています。これらの要因が複合的に重なることで、「お腹は空いているはずなのに食欲がわかない」という状態に陥りやすくなるのです。
不規則な食事・早食いの影響
現代人の食生活は、忙しさからつい不規則になりがちです。朝食を抜いたり、昼食を短時間で済ませたり、夜遅くにドカ食いをしたりという習慣は、胃のリズムを狂わせる大きな原因となります。胃は本来、一定のリズムで動くことで最も効率的に機能しますが、これが乱れると、胃液の分泌やぜん動運動のタイミングもバラバラになり、消化機能が低下します。また、早食いをすると咀嚼が不十分なまま大量の食物が胃に流れ込み、胃に大きな負担をかけてしまいます。その結果、胃が消化に追われ、膨満感や違和感を引き起こしやすくなり、「もう食べたくない」という気分につながってしまうのです。こうした悪習慣を長く続けていると、胃の機能低下はどんどん進行し、慢性的な食欲不振に陥ってしまう恐れもあります。
過度なストレスと自律神経の乱れ
胃の働きは、自律神経という無意識に働く神経系に強く支配されています。自律神経には「交感神経」と「副交感神経」があり、リラックスしているときには副交感神経が働いて胃の動きが活発になり、ストレスや緊張状態では交感神経が優位となり、胃の働きが抑制されるという特徴があります。つまり、ストレスが強い環境にいると、胃の活動は著しく低下し、食欲も自然と減退します。特に仕事や人間関係で強いプレッシャーを感じている人は、無意識のうちに胃が緊張し続けている状態になっており、食べたいという欲求よりも「気持ち悪さ」や「お腹が重い」という感覚が優先されてしまうのです。
また、ストレスが長期化すると、自律神経そのもののバランスが崩れやすくなり、睡眠障害や疲労感といった他の不調も引き起こします。こうなると、胃の働きはさらに低下し、負のスパイラルに陥るリスクが高まります。
胃の不調と関連する疾患
胃の機能が低下しているときに考えられる代表的な疾患には、機能性ディスペプシア、逆流性食道炎、慢性胃炎などがあります。これらの疾患はいずれも「胃の形や構造には異常がない」のに症状が現れることが特徴で、「なんとなく食べたくない」「食後に胃が重い」「空腹なのに胃が動かない」といった漠然とした症状が中心になります。
機能性ディスペプシア(FD)

機能性ディスペプシアは、近年増加している消化器の疾患のひとつで、内視鏡などで異常が見られないにもかかわらず、慢性的に胃の不調を訴える状態です。主な症状としては、早期満腹感、心窩部の痛みや灼熱感、胃のもたれ、吐き気などが挙げられます。ストレスや不規則な生活、暴飲暴食などが発症のきっかけになることが多く、働き盛りの中高年層に多く見られます。治療には、胃酸の分泌を抑える薬、消化促進薬、漢方薬、そしてストレス対策が用いられます。
逆流性食道炎(GERD)

逆流性食道炎は、胃酸や胃の内容物が食道へ逆流して炎症を引き起こす疾患です。胸焼けや酸っぱいげっぷ、喉の違和感、咳、声のかすれなどが主な症状ですが、これにより食欲が低下するケースも少なくありません。特に食後に強い不快感が続く場合には、自然と「食べたくない」という気持ちになりがちです。
慢性胃炎
長期間にわたって胃の粘膜が炎症を起こしている状態が慢性胃炎です。ピロリ菌感染や加齢、ストレス、刺激物の過剰摂取が原因となります。症状は軽微なことも多く、気づかないうちに胃の機能が衰えていることもあります。慢性胃炎の進行は胃酸の分泌能力低下を招き、結果的に食欲不振へとつながっていくのです。
胃の機能低下チェックリスト

以下のような症状が2つ以上当てはまる場合は、胃の機能が低下している可能性が高いです。放置せず、医師に相談することをおすすめします。
・食事の量が明らかに減った
・少し食べただけで満腹になる
・食後の胃もたれや不快感が続く
・空腹を感じても、いざ食べると受けつけない
・吐き気や胸やけが頻繁に起こる
・ストレスが強く、食べる意欲が湧かない
・胃が重く、鈍い痛みがあることが多い
・げっぷやガスが増えている
・体重が減ってきた、もしくは栄養状態に不安がある
医療機関での検査と診断
胃の機能低下が疑われる場合、内科や消化器内科での診断が必要です。診察ではまず、詳細な問診と触診が行われ、必要に応じて以下の検査が実施されます。
内視鏡検査(胃カメラ)
胃の中の状態を直接確認できる最も信頼性の高い検査です。ポリープや潰瘍、炎症、腫瘍などの有無を視覚的に判断できます。見た目には異常がなくても、組織を一部採取して病理検査を行うこともあります。
胃の運動機能検査

胃の動きを測定する「胃排出能試験」や「消化管造影検査」により、胃がどの程度正常に働いているかを確認することができます。これにより、機能性ディスペプシアや胃アトニーの診断に繋がることがあります。
ピロリ菌
慢性胃炎や胃がんの原因ともなるヘリコバクター・ピロリ菌の感染を調べる検査です。尿素呼気試験、抗体検査、便中抗原検査などがあり、除菌治療により症状が改善されるケースもあります。
よくある質問(FAQ)
空腹なのに食べたくないのはストレスのせい?
はい、ストレスは胃の動きを抑えるため、空腹を感じても食欲が起こらない原因となります。
食事を抜いても大丈夫?
短期間なら問題ありませんが、栄養不足や胃の活動低下を招くので注意が必要です。
胃薬で治る?
症状の原因によっては改善しますが、根本的な生活改善が重要です。
空腹時に胃が気持ち悪いのは?
胃酸過多や感覚過敏の可能性があるため、医師に相談しましょう。
水分は摂ったほうがいい?
はい、胃の働きを助け、消化を促進するためにも常温の水分補給が効果的です。
自分でできる改善法は?
規則正しい生活、バランスの取れた食事、ストレス管理、十分な睡眠が基本です。

